蝋人形の館 番外編<アイノコトバ>朋華1 ラブマシーン
「やっぱりドキドキするために恋をするよ」
「そろそろ彼の誕生日なんだー」
いつもの喫茶店、いつも変わらない友達とパフェを食べながら流れている会話は学校の事、夢、悩み、恋とバラエティに富んでいる。
顔を赤らめながら好きな人について語っている友人を見ながら笑う。
不安で押しつぶされてしまう事もあるのにどうしてこんな風に思いつづけられるんだろう?
「朋華も彼氏作りなよ」
毎日毎日一緒にいたいと思える人なんていない。
「別にいらないよ。どきどきする相手なんていらないんだから」
いらない・・思っても叶わない思いがあると思い知らされるのは家庭環境だけで十分だもん。
「帰っていたの」
玄関のドアから出てくる母親がそっけもなく声を出す。
「お帰りなさい。お母さん」
返ってくるのはウルサイと言い残していくのは分かっているけど
「うるさいわね」
それだけを言い残して出て行く光景も見慣れてしまった。小さい時に両親が離婚して母親に引き取られてからずっとこんな生活と会話。
いつ帰ってきてもいいようにちゃんと二人分の食事を作って待っていても、手をつける事もなく今日も母親は出て行ってしまった。
一人では食べきれなくて残ってしまった食材の劣化と一緒に今の私も腐っていく。
一人が寂しくて、苦しくて、学校ではテンションをあげているから16歳の楽しい女子高校生ライフと思われているけど、
帰ったら誰もいない部屋で一人寂しさを感じているのが本当の自分 崎朋華の生活。
目に見えない、形もないからいつかは消えてしまう気持ちなら他人を愛さない方がいい。傷つきたくないから。
詳しくなったファッション、メイクと明るさで人の輪の中にいて楽しさを感じていても、時間がたてばすぐに心が冷たくなってしまうそんな自分が嫌い。
裏切られるのが嫌だから、悲しいから男の人と付き合おうなんて考えた事がない。
友達と別れて、家に近い横断歩道までが遠かった。
よし。誰もいないし車道を走れば近道だ
周りを見回し、確認をして車道を渡っていると見落としていた一台の車が近づいている。
ここで死ぬかもしれないと思った瞬間体がすくんでしまって足が動かないまま、目を閉じた。
「大丈夫ですか?」
目を開けると寸前の所で車は止まっていて、運転していた運転手の人が声をかけてくれる。
助かった・・ほっとしてその場にへたり込んでいた体を起こした時に足に痛みを感じた。
「あ・・大丈夫です」
手を差し出してくれる運転手の方へ顔を向けると色素が薄い目で心配そうに覗き込んでいる綺麗な男の人だった。
うわぁ・・綺麗。しなやかな体格で女の人にも顔負けしてしまうくらい白い肌と整った顔に見とれている私を不思議そうな顔で見つめ返す。
「痛かったら言ってください」
丁寧な言葉つかいで細い指が私の足に触れる。
「へ、平気ですから」
初対面の男の人から足を触られて不快感どころか反応してしまう私を見透かしたように、触れられた手はじっくりと丹念に動いている。
「ちゃんと言ってくれないと分かりませんよ。それとも感じました?」
「わ・・私は別に」
ドキドキしているのを隠して大きな声で返事をする。反応してしまった自分が恥ずかしくてこの場から逃げ出したいのに、怪我とは別で起き上がれない。
ど・・どうしよう・・・・・。
「立てないみたいですね。ちゃんと手当てをしたほうがいいみたいですがお時間大丈夫ですか?」
私の手を取り、心地よい強さで立ち上がらせてながら聞いてくる。
家に帰ってもいつもと同じ、寂しさを感じてしまうぐらいなら、少しだけこの人と一緒にいてもかまわないと決めうなずいた。
車を運転している同年代の男の子にはない謙虚さと仕立てのいいスーツを着こなせる余裕を持っている人を横目で見る。
年上?もしかしたら年下?名前は?血液型は?こんな事ばかり考えていて ドキドキが止まらない。
「どうぞ」
あっという間に到着して車から降りると豪勢なマンションだった。
こ・・こんな豪華なマンション・・をなれた手つきでキー操作をして部屋に入る。
「そこのソファーに座ってください。今薬を持ってきますから」
促されるままソファーに座って2LDKの広い部屋を眺めている。
ベット、書籍を入れる本立て、クローゼットとオーディオ機器、綺麗に片付けられた部屋なんだけ生活感を感じない。
「少ししみますが我慢してください」
真摯に手当てをしてくれる手と目からやましい気持ちも感じ取れない。それなのに私ったら反応してしまって。
気持ちを紛らわそうと所々飾られている絵が視界に写った。
「ここにある絵は全部貴方が?」
聞いてはいけないことだったのかな?一瞬だけ嫌気を示している目で見られたような気がする。
「そうですよ」
「私は絵の事まったく分からないけどそこに飾られている絵が好き」
小さな森の小屋と風景が描かれているだけなのに見ていて心が落ち着く。
「なんだか、私もその場所に行きたくなってくるから」
きょとんとした目で私を見つめて、初めて声を立てて面白い人ですねと言ってきた。
「え?」
私変な事言ったのかな?でもクールで物静かでどこか周りを遮断しているような冷たさを感じていたけど、笑うと可愛い。この人
男の人に可愛いなんていったら傷つくからのどから出かかっている言葉を止めた。
「どこが?」
聞き返せばさらに楽しそうに笑い
「貴女の全部ですよ」
名前も知らない初対面の男の人にドキドキして、この人の言葉と表情一つ一つが素直に私の中に染み込んでいく。
「あ!!もう18時そろそろ帰るね。えっと」
もうちょっといやずっとここにいたいけど
「送っていきますよ。僕の名前は聖輝志<ひじり きし>です」
「私の名前は崎朋華だよ。名前聞いて『リボンの騎士』を思い出したよ」
「何ですか?それは?」
手塚治の名作(私の中では)を知らない人がいるなんて。輝志必死になって考え込んでいる。
このまま別れてしまったらそれっきりになってしまうから、この出会いとチャンス逃すと一生後悔する。
「あのさ、明日また会ってくれない?」
明日は日曜日そのままデートに持ち込んでもっとこの人のことが知りたいし、私のことも知ってもらいたい。
「明日・・ですか・・」
戸惑いを隠していない声 やっぱり迷惑だったのかな。
「嫌?」
「あ、、いえ違うんです」
慌てて手を振って否定しながら
「あのですね・・・。貴女みたいな若い肩に20歳の男なんて・・」
20・・??
「え!?ううん。そんなの気にしていないよ。そうだね、映画見に行こうか」
どう見たって私と同年代か、同年代にはない落ち着きだからちょっと上だと思っていたけど4歳が離れている事にびっくりしてしまった。
童顔だからそんな風に見てしまったけど、仕立てのいいスーツや車をさらりと着て、乗っているんだから・・すぐに納得できた。
「はい。明日よろしくお願いします」
「じゃ、また明日」
輝志を見送り、部屋の中ではファッションショーよろしくで服を並べる。
私から誘った事なんてないのに「明日映画見に行こう」なんて・・・。
これってデートを申し込んだ事になるんだよね?落ち着かない鼓動とふわふわした心地よさが交錯している。
うきゃー。どうしよう。
嬉しそうに笑っている輝志の顔を思い出しただけで心臓がばくばくしているよ。
赤面しながら頭の中では輝志のことばかり考えていた。私どうしちゃったんだろう?こんな気持ちはじめて。
これが彼との出会いでもあり、この出会いから私の運命は回り始めたのかもしれない。
目覚ましよりも早く目が醒めて、鏡の前の自分の姿を確認する。
昨日決めた服、髪型、メイクもこの時にはこっちもいいかも?いやこっちが・・目移りしてしまう。
少しでも綺麗に見られたい気持ち、ふわふわした心地よさとドキドキしている気持ちがずっと収まりきれない。
って・・もう約束の時間になりかかっている。急いで家を出た。
走って待ち合わせの場所付近の時計を見ると約束の時間10分前。よかった・・間に合った。
ほっと息をついて待ち合わせの場所まで行こうと足を進めると、その場所には輝志が立っている。
白いシャツに英国製のベストとベージュのパンツ、シックな装いだけど他の人よりも鮮明に見える。
「おはようとお待たせ」
落ち付かないのかそわそわと時計を見ている姿が可愛くてちょっと遅れていこうかと思ったけど、今来たよとばかりに走って手を上げる。
「ごめんね。待たせてしまったね」
「いえ、そんな事ないですよ」
私の姿を見て昨日と同じように落ち着いて言葉を紡ぐ。
「今日の服、昨日とは雰囲気違うけどどうしたの?」
「やっぱり変ですか?・・若・・作りです」
「若作りって。あははは」
赤面しながら自分の格好を見つめている。
「ごめん。笑ってしまって。変じゃないよ昨日のスーツはかっこいいけど、その服は可愛くて好きだよ」
首を横に振っているけどまだ笑いが止まらない。
自分が20歳、私との年齢さにギャップを感じていたから気を使ってくれたのかな?私と同じようにあの部屋で服を並べている輝志の姿。
どうみたって同年代のカップルに見える・・そう考えると嬉しくて赤面してしまう。
「いい香りですね」
いきなり話を振られたからびっくりしながらも
「分かる?」
「ええ。好きな香りですよ」
意識して香水をつけてきたけど、気が付いてくれて聞いてくれたからさらにドキドキしてしまう。
「エリザベスアーデンの「トゥルーラブオードトワレスプレイナチュラル」だよ。」
長いオードトワレの名前を言った瞬間 トゥルーラブって・・・
「似合っていますよ。とても」
よかった。喜んでもらっている。
「そうだ。映画よりも先に行きたいところあるんだ」
「・・・・あの・・一体僕にどうしてほしいんですか?」
行き付けのビルの中の紳士服とカジュアルウェアー売り場に入った瞬間引き攣った顔で聞いてくる。
「私が着て欲しいという服を着て欲しいなって」
困っている事も気にせずににっこりと笑ってねだる。
「僕、首が絞まらない服着るの苦手なんです」
「まぁまぁ。何事も体験」
ほとんど強引に服を選んで試着室にいる輝志に服を渡した。
「輝志まだ?」
試着室が開くのを今か今かとそわそわしながら待っている。
「どうですか?」
露出度の高め服もしっくりと着こなせているのに、本人は恥ずかしくてたまらない顔で遠くを見ている。
「かっこいいよ♪」
本当は慣れない服のままがちがちの輝志でもよかったけど、自然な状態じゃないからすぐに着替えてもらった。
映画を見て、飲食店まで話しながら歩いていると
「よぉ朋華」
前に付き合っていた人が声をかけてきた。
「誰ですか?」
「ん・・元かれ」
もう違う人と歩いている元かれよりも嫌だったのは輝志がいるのに・・と思っている。
「あんた、こいつやめた方がいいよ。ガードが固いからつまらねぇし」
本当によかった。酷い事平然といえる人と別れて。
「えー!!うそー。今時ちゅーもさせない人いるんだー」
これみよがしに腕に絡んでいる彼女が笑いながら言う。
酷い・・そんな事言われる筋合いないってわかっているのに、何も反論できずに前に立っている輝志の腕を引っ張って言葉を捜している。
小さく引っ張った腕を引き寄せて、気が付くと本当にキスする距離に輝志の顔と至近距離
「朋華ってキスする時の顔とても色っぽいんですよ。まあ貴方みたいな人には知らないままですけど」
くすくす笑いながらその場を静めてくれた。
「どうしてあんな事言われなきゃ悪いの」
「頼みますからそんなにがぶ飲みしないでください」
輝志が入れてくれる紅茶をぐいぐい飲む私に、すぐに空になる紅茶を注ぎ出しながらなだめ役に徹する輝志。
「さっきはあんな台詞言ったくせに」
本当にキスしそうな距離で初めて名前を呼んでくれて
「あ・・ぅ・・・」
本当は名前を呼んでくれて、中傷を止めてくれた事が嬉しかったのについからかってしまう。
持っていたポットを落としそうなくらいわたわたと焦っている顔を自分の方に向けて
「ありがと」
小さく呟いた時に私、このドキドキの正体服越しから伝わる体温と一緒にこの人に恋していることに気が付いた。