静謐 BGM 「CAUTION」
神様は信じない・・か。昨日訪れたお客様はその思いが一杯だった。
行き場の無い怒りと悲しみに震えている体、瞳の色は大切な人を失った私の目を映すように見えた。
「・・どんな姿に・・なっても・・いい。あな・・たと・・一緒に・・いたいよ・・」
朋華が最後に伝えてくれた言葉 今も私の心を締め付けている。どんな姿にそういって貴女は蝋人形となって再会を果たした。
滑らかなビロードの肌触りと今にも息を吹き返しそうな綺麗な表情。とても綺麗だった
でもその腕の中に眠る事も、笑い声も、温もりも感じることはできない。静かな時間、何時までも続くとても静かな時間と館の中
もう一人だと思い知らせれかけていた時琥珀先輩は・・・・・どうしてだろう思い出せない。
決めれた時間、決められた仕事、決められた相手しか会えない 永遠に時間の流れない場所蝋人形の館私の届かない願いもまたその中では無効になってしまう。
私は一人の人間としてなく『案内人』だから。
「・・朋華・・」
小さく呟くと目の前に笑っている
「ただいま」
その姿、その声で私の前に立っていた。さらに笑顔を膨らませその手の温もりを惜しげも無く与えてくれる。
何年ぶりなのか ここで過ごした時間は長すぎてもう分らなくなってしまったけどとても懐かしい だけど恋しい温もりが手を伸ばせばすぐそばにあった。
「赤光」
さらに深く強く首に手を絡めている動きを始める。それを受け止めながら
「あ・・・」
小さい声の断末魔を聞きながら背中に刺したスナイパー(=9話の赤光が刺していた小刀)を引き抜く。
「偽者に用はありません。その姿でいるのをやめてもらえませんか?不快なので」
「偽者なんかじゃないよ」
再び笑った顔した瞬間今度は心臓を刺す。そして音を立てて崩れていく姿を見届けながら重力を使い崩れている侵入者を跡形も無く消す。
「いくらその姿を模しても・・いくら使っていた香水をつけてもその体にまとわりついている死臭は消せません」
あの人を汚された気がして抑制ができなかった。それに赤光はここの私であって彼女は本当の名前で呼んでくれるから。
手先に生暖かい物を感じて 切り裂いた体の血が気がつかない内に着いている。
さっきの姿 すぐにわかったけど一瞬でも彼女がそばにいると思い込もうとしている自分の中の弱さを再認識すると共に朋華が息を引き取ったあの瞬間とあの日が蘇ってくる。
温もりを失っていく体、かすれがちに私に何かを伝えようとしている言葉、何かを掴もうとあげた腕
その言葉を一言も聞き逃さないように神経を尖らせて聞き、あげる腕を止めて手を握った私と嘲笑うかのように私達を見ていた義理の父親の笑い声。
今でも頭の中の理性が溶けかけそうな憎しみがこみ上げてくる。
「・・夢・・ですか?」
溶けかけた理性とともに目が覚めたら自室のベットだった。
夢にしては鮮明で夢か現実かボーダーラインがわからなくて暫く考えていたけど今日のお客様のリストを建前に考えるのをやめた。
誰もいない部屋で作業をし終えて一段落できるようになった。
何気なく右手をかざし、見ていたらさっきの血の温もりがオーバーラップして、目をこすってかざした手の見直しをすると血もオーバーラップした感覚も消えていた。
「そろそろ朋華の命日だからかもしれませんね」
じっとりと湿った嫌な汗が出てきたからサイドテーブルの水を飲んで不快な夢を忘れる為に一気に飲み干した。
冷たい水が体の熱さと流れた汗を冷まし、水分補給をしたらさっきまでの不快感が消えてすっきりしてきた。
貴女を忘れたい、忘れていたわけでもない。
思い出すと自分のもろさを知ってしまうから失笑をして恋は怖い物だと自分の中で反復させる。
「失う事よりも一人になる事の方が怖くなってしまったから」
初めて恋をして 落ちて 貴女を愛して 安らぎを求めてながら、不器用に怯えている私を包んでくれた貴女
家族や自分の名前も忘れていたのに貴女の事だけは覚えていて淡い感傷を振り切って朝のシャワーを浴びに出た。
「重たくてどうしようもない時もあるんだ」
琥珀先輩の見せた最初で最後の影を知り この館の存在の事と選択肢と案内人のあり方を話してくれた。
自らの手で一つの命を消滅させる時徐々に消えていくのを見届けている度にお客様と朋華を重ねてしまっている自分。
何度でも何度でも重ねてしまい『案内人』の立場を忘れて消滅を妨げたい衝動にかられてしまうのもまた事実。
抑鬱になりそうな体を律するようにシャワーの水圧と音だけが思い出した記憶をかき消していく。
だけど消えない今日でもう何度目かの記憶に飲まれそうになるのも・・・
シャワーを終えて備え付けの鏡で映されている自分を見てみる。自分で言うのもどうかと思うけど白い体と色素の薄い髪
私がいなければ貴女はそんな最後を迎えなかった息が苦しくなる嫌悪感と再び押し寄せる憎悪が体を苛んでいく。
「違・・う」
呼吸を取り戻そうと深く息をして見上げた視線の先に私がいた。その私はうねるような声で私を責める「お前のせいだ」と際限無くくり返す。
「違います・・」
「あなたがいたから私は殺された」
「朋華?」
吐き捨てるように私に向ける声の主の目を見つめるとさらに残酷な言葉を紡ぎ出す。
「どうして私はあんな死に方をしなきゃならなかったの?」
何かを伝えようと手を伸ばし、突きつけられた質問に答えようとしても今の私の思考力じゃ無理だった。
息がしにくい、頭では答えを出そうとしているけどどんどん空回りしていく。連続で続いた不快な夢も重なって立っているのもやっとの状態だった。
「どうして?」とくり返す朋華が私の体に触れた瞬間意識が途絶えた。
見回しても何もない館とは違う独房の闇の中に私は一人立っていた。
同じ闇でも館には温もりを感じるけど ここにいると肌に痛いくらい突き刺さる悪意と憎悪を向けられている感覚が消えないから。
闇が怖いと同時に体を焼かれたように熱い痛みを感じた。
「・・人殺し」
壊れたスピーカーのような声が聞こえて振り返ると朋華と琥珀先輩が立っていた。
朋華の大きな目を見ると罪悪感を 琥珀先輩の淡紫の目を見ると威圧感を感じてしまう。近づこうとする二人よりも先に私は動いた。
二人の責めるような視線を一身に浴びながら だからここは同じ闇でも心が痛むんだと思いながら
「また私を殺すの?」
その問いかけに悲鳴も発しないように一瞬で二人を重力で押し殺した。
「私の嫌いな事は二度同じ事を言わせることですよ。偽者には用はありません」
「この数日間この光景を見せているのは貴方ですね?いいかげん出てきたらどうですか?」
「自らの手で恋人を迷いも無く殺せるんだねぇ」
癇に障る笑みを浮かべ
「私の弱い部分を突いたつもりですが逆効果ですね」
スナイパーを取り出し侵入者の心臓を狙う。今まで見せてこられた不快な姿と行動に久しぶりに闘争心が沸いてきた。
「朋華と琥珀先輩の姿を借りる時点で私にとっては重罪ですよ。偽者と同じ運命をあげますよ」
「まさか生き残っているとは思わなかったよ赤光」
どうしてこの人は私の名前だけでなくて弱点も知っているのか?
「前に蝋人形を盗みにきた時にはもう一人案内人がいたよな」
「・・・・貴方の事を思い出しましたよ」
反応する私を見下し笑うこの侵入者の心境がわからない。わかりたくもないけど構えていたスナイパーが腕から落ちる。
「琥珀先輩が出来なかった事を私はしますよ 先輩の仇を取るために!」
すぐにでも立ち向かいたいのに体が動かない
「お前が倒してきた偽者達の血には体の抵抗力を下げる薬が入っているからだ。少量でも確実に 隙を広げるために。
今度こそ蝋人形を奪えるまでの時間はそのままだから」
今日の体の不調はすべて薬のせいだったのか・・・連続で血を浴びていたから・・自分の甘さを悔やんでも始まらない。体が動くまで会話をして時間を延ばすようにする。
「蝋人形をどうするつもりですか?」
「生命を閉じ込めた珍しい人形だから」
「売買目的の為に貴方は動いているわけですか?そして訂正しておきます人形じゃない・・人間ですよ」
「動かない、声もないなら人間なんかじゃないねぇ」
そう言い切り執拗に急所をはずした個所を殴られて続けた。
・・・・また意識が飛んだのか?
「赤光ちょっとこい」いつもと同じように先輩は私を呼びつけ何も言わず初めて自室の部屋に私を入れてくれた。
「さっさと入れよ」
人柄を表すような広広とした部屋に趣味かコレクションがわからないけど小さなビンにいれた水と植物と時計があって木製の家具と目に優しいグリーンに囲まれた部屋だった。
「どうして私を呼んだんですか?」
口を開こうとしない先輩と初めて入る部屋で沈黙を続けるのはちょっと窮屈だったから
「お前は時計の針を戻せば時間が戻れたらいいと思ったことあるか?」
突発的に逆質問を受けて戸惑っている私はどうして部屋に入れてくれたのか?どうして先輩らしくないまわりくどい質問をするのか?疑問が2つ出てきているけど
当の本人はコレクション(?)の一つの時計を手にとって私の返答を待っている。
「いいえ」
その視線を受け止め首を横にふった。
「以前はそうなったらいいなって思っていました。でも今は違います」
重なり続けるこの思いに耐え切れずに命を絶とうと思ったけど どんなに叫んでも求めてももうどうしようもないから。
生きる事が辛くて、哀しくて自分の中の終わりばかりを見ていた時。琥珀先輩が不機嫌そうな顔で名前をくれて、居場所をくれて再び私の中で何かを動かしてくれた。
ここに来る人達の痛みに触れて、同じような痛みを持っている人が下す決断を見ていくうちにここで止まっている場合じゃないと思い始めた。
「時計の針を戻しても時間は戻りません。だけど進む針を動かす事はできます」
過去は戻らないけどこれから先の事は自分次第でどうにでもなる事に気がついた。
「そうか今なら見せても大丈夫だな」
時計から私のほうを見る先輩に頷いた。
「何の話ですか?」
何も答えず近くにあったクローゼットを開ける。ガラス箱に入れられた蝋人形は、ガラス箱に入れられた恋人の姿に言葉が出てこなかった。
「朋・・・華」
固まった顔を自分の方に向けさせ
「俺は他人の過去と未来が見える目を持っているんだ」
引き寄せられ淡い紫の目が私の心を察するように近くにある。遠くから見ていても綺麗な目だと思っていたけど至近距離からこうしてみていたらもっと綺麗だった。
「この目でお客のデータ−から生い立ちを見て適している時期に呼んで 先に見えた事を踏まえて契約をしてきたけどお前の恋人は違った」
顔を離しガラス箱の朋華の方に私の顔を持っていく。
「彼女と会った時はお前と生活を始める前で自分がいつ死んでしまうのかを聞いてきたんだ」
「じゃあ自分が死ぬ日を知っていたって事ですか?」
「ああ。お前の義理の父はお前に関わる全ての事を察知していた。お前達が深くなるにつれて彼女への監視が始まった」
「・・・・・知らなかったです」
どうして彼女が怯えていたのか 不安な言葉を発していたのか それは家庭内のトラブルだからと思っていたから。
側にいる人がいない生活を送ってきた不安だと思ったから私は一緒に暮らそうと言い出せた。
「俺は二年半と答えたら『いつ人間が死んでもおかしくないし二年半も好きな人といられる事 過ごす時間があるなら幸せです』って答えた。普通ならその日が来るまで怯えていたり焦ったりするけどな」
先輩は死後魂は蝋人形として留まらせる契約を結んで彼女は現実世界へ戻っていった。
私の側から離れていたら貴女は自分の時間を変える事もできたのに 最後まで私の側にいて泣いたり、怒ったり そして笑ったりして今まで1番心休まる時間を私にくれた。
短い時間を私に渡してくれた貴女の決断に私はどれくらい返せましたか?真っ白な蝋で塗られている貴女を見ながら問い掛けてもわからない。
「お前人形は命がないって思っていないか?」
「はい。綺麗で芸術品だと思います。」
「人の形と書いて人形だけど、その作った人の意思や魂や思いが込められて存在するなら、人間同様命を吹き吹き込まれないと生まれない点からみて人形にも命があると思うんだ」
「存在すること」
「ここの蝋人形は自らの意思と心で決断してきた。例え動かなくても意思を持っているのなら俺は命がないと思わない。強い意思があるから綺麗なんだ。思いが強ければ強いほど」
丁寧に壊さないように触れていた手の力を込めて確かめている私に
「荒っぽい方法で対面させて悪かった。あとはお前がすきにしろよ」
仕事といい部屋を後にした先輩の背中を見た二日後に・・琥珀先輩は侵入者に殺された。
目の前でぐったりと横たわっている先輩を看取りながら 案内人の座を譲って能力をくれた。
「そんな顔するなよ」
いつものように笑いながらおぼつかない手で胸ポケットを探る。
「これは?」
「俺の1番好きな時計だ。餞別」
年季が入った金色の懐中時計がずっしりと私の手の中に納まっている。
「ありがたくいただきます。だから・・・お願いです死なないでください」
「俺がいなくてもしっかりできるさ。赤光。あげた能力はお前にぴったりの能力になる。あまり使いすぎると爆発的な力になるから気をつけろよ」
先輩の見えやすい場所に時計をつけると、先輩は息を引き取った。
どうして今になって思い出したのか 静かで穏やかな空間にお客様という刺激を加えて強い意思に感化され『案内人』として仕事をしているが、どれだけ時間が流れても時間とは関係のない空間。
だけど変わらない存在理由と場所 穏やかでありながらも魂の牢獄と感じていた館に親しみを感じたのも 誇りを持って仕事が出来るのもこの事がきっかけだった。
「貴方などに蝋人形を渡しません・・」
案内人としての義務じゃない こんな人に指一本触れさせたくないという自我から相変わらず体は動かないけど体の中から力が溢れてくる。
「はっ!やってみろよ」
「ここまで怒ったのは初めてですよ。できれば最初で最後にしたいんですけど」
一心不乱に体を動かそうと足掻く 先輩の仇とこの館を汚した侵入者を倒すために
「すごい目だな。だったら本気でいかせてもらう」
「ゴホッ。。」
口の中から苦い血の味が広がってきたどこかで口の中を切ったのか、案内人として授かった重力を使ってしまったせいなのか。
分かっている事は体の負担が多いだけ。だけど残っている全ての力をつかってでもこの侵入者を倒す。
「ゴホッ」
能力を使い切ってしまったけどもしものことがあったら青蓮が・・それに走馬灯も見えないまま意識がなくなっていく。
「・・おい」
聞き覚えのある声がする。
「オラ。さっさと起きろ」
反射的にいや実についてしまった習性がなせる技で急いで意識を向けた。
「せ、、、先輩?」
「ったく。なるべく力をコントロールしろって言い残しただろ」
呆然としている私に生前では見せなかった笑い方や仕草をする先輩
「言っとくけど俺は自分の為に生きていったんだ。お前が気に病むような優しい所もないし感情に流されて能力は使うなよ」
「いいえ。ちゃんと朋華を丁重に扱ってくれました。それに・・本当は自分が死ぬ日もわかっていたんですよね。だからそういう言い方で突っぱねているんですよね」
「お前いい性格になったよな」
「お褒めの言葉と受け取ります」
「お前達を見ているとどうにかしたいと思って能力だけじゃなくて お前が青蓮に案内人の座を明渡す時が来たら朋華さんが生き返るようにしたんだよ。そうしなかったらあんな侵入者軽く倒せたのにな」
案内人として育てれれ生きてきて 案内人の座をあけわたし能力までもあげたら死んでしまうけど、私は生身の人間で半ばお客様できたから三代目の青蓮に座を渡しても死んでしまわないように配慮をした。
「チャンスを生かせば二人でまた生活できるからそれまでに力蓄えておけよ。もし出来なかったらいびり倒してやるから」
「・・・嫌です」
「お前本当にいい性格してきているよ。じゃあな」
「鷹晶さん?」
目を開けると真上には心配そうに私の顔を覗き込んでいるワインレッドの目が光っていた。
「心配したよ。遊びに来たら部屋も散らかっていて血だらけで倒れていたから」
施された包帯をみて
「助けててくれてありがとうございました。」
「結構血が出ていたから暫く動くなよ。御礼言うなら助けてよりも手当てじゃか?」
「本当は私と侵入者がいる場面にいらしたんですよね?」
重力特有の傷口が残っているのをさっき発見したから。
「まぁな。怒らせると怖いって事がわかったよ」
困った目で私を見るからサイドテーブルにあったバイオリンケースをとり楽器を取り出す。
「傷にひびくぞ」
「少しだけですから。ね」
軽くチューニングをして思いついた曲から弾き始めた。甘いエドガーの愛の挨拶を聞いていて
「隠された趣味があったんだな。そういえば3日間ずっと寝ていたから俺が代わりに案内人をやったよ」
「えぇ?」
「とにかく生きろっていって話をしていったよ」
「それでお客様は?」
「なんとかがんばれそうってみんな帰ったよ」
本当にそれでいいんだろうか?3人みんな現世に戻ったんだから私よりも案内人に向いているかもしれないと複雑な気持ちで友人の鷹晶さんをみながらバイオリンをしまった。
「これが当たっていたから急所に深い傷がなかったんだ」
「けど壊れてしまったな」
渡してくれた琥珀先輩からもらった懐中時計に触れて
「いいえ。また直します。壊れたらまた直して・・そうやってまた動き出すから」
もしかしたら時計と人間は同じ物なのかもしれない。時の中を動き、進む所とかだから先輩は時計を集めていたのかもしれない。
手のひらでずっしりとした重さを持っているのは先輩が大切にしてきたねじマキ式の時計で 蓋の所に<落ち込んだときにはその分だけねじを回せ>from琥珀大先輩
そう書かれていた意味はお前が巻かなかったらその時計は止まる。お前にだって出来る事はあるんだと励ましてくれるように。
最後の最後まで先輩は私を思ってくれた。自分がなくなっても明るくできるように 言葉にない言葉で教えてくれた。
少し泣き出しそうになる顔を元に戻して時計を眺めている私に
「ほらあーん」
「え?」
「怪我の時ぐらい甘えてもいいんだぞ。誰かに頼られつづけるのは結構きついだろ」
「そんなことはありませんよ。でも、、じゃいただきます」
なんだかんだいいながらも鷹晶さんは優しい。今はその厚意に甘えてゆっくり休もう。また明日がんばれるように。