星が消えていく 空を見上げていればそこにある光が消えていった。
手を伸ばしても届かない それでも必死に手を伸ばす事しかできなかった。

蝋人形の館 悲鎖〜悲しみの連鎖  BGM ICEMAN 「Image of tommorow」

「私の事が怖い?気持ち悪くない?」
事務連絡のように私に尋ねる少女の言葉にどういっていいのか分らなかった。
「どうしてそういう事を言うのですか?」
まっすぐ迷いの無い大きな目で見つめられながら安易な言葉で心を塞がれないように言葉をかけた。

 年齢、名前、血液型、性格の特称などのデーターでは見えないデーターなんて役に立たないそんな状況に置かれている。実際に館にお招きして対面した時に向けれれた大きな瞳と言葉が頭から離れられない。

貴女はどこをみているの?貴女は目の前にいる私をとらえていながらも もっと遠くを見ている。
「失礼しました。私はここの案内人赤光と申します。よろしくお願いします」
頭を下げて少女と同じ目線と至近距離で話しかける。
 能面を連想させるような微動もしない表情の変化と明日を見るのを忘れたような何もうつさない目希望も望まない 瞳以上の漆黒を表すような目何もかも諦めたような、冷めたような目で私を見ている。

「立ち話もなんですから今お茶とお菓子を持ってきますね。クッキーとか食べれますか?」
「あ・・ええ」
これを機に一気にたたみこむように交流を取ろうと
「ソフトクッキーとか、ちゃんとしたものでしたらリゾットとかグラタンとか大丈夫ですか?」
「大丈夫です」
「じゃクッキーを焼いている間に全部作りますよ」
いそいそとエプロンを片手に準備に取り掛かる私の姿を見て
「でも・・全部食べれません・・」
焼きたてのクッキーとクッキー特有の甘い香りを取り出して
「では少しずつ食べていきましょう。ここは時間という流れが無い場所です。貴女が私に選択を伝えてくれるまでゆっくりと貴女の心にある物を探し出してください」
「心・・・」
再度影が差し込め出した。
年端もいかないのにどうしてあんな目をしているのか それ以上にその小さな体の中に抱えている闇の大きさに飲み込まれそうな危うさともろさを感じてしまう。

 強いけど背後には想像もできない闇を持っている誰にも癒されない傷跡を持って抱えきれずにこの館に迷いこんで。
典型的なパターンの一つだけどディスプレイに打ち込まれているお客様の情報だけじゃ足りない 分らない生半可に取り掛かったらお客様は『消滅』を選ぶのかもしれない。
それだけは避けたいと今回は強く思ってしまう。
何故?
お客様はお客様・・・ですよね?琥珀先輩。
特別な強い気持ちを持ったら案内人としてはあるまじき事なんですよね。どうしても何とかしたくなる。どうして・・・分らない。
自分の気持ちが案内人赤光としての視点じゃなく私個人として何かが渦巻いている。
そう忘れてしまった朋華にしか分らない一個人としての感情が。

「おはようございます。気分はどうですか?」
眠たそうな目をこすってテーブルに座るお客様に朝食を用意する。

 初めから奥底を探ろうなんて気持ちはさらさらない。こういう風にまずは食事を一緒にしたりして会話を増やす事にした。いくつかわかった事は好みの食べ物、苦手な食べ物。
一緒に見えなかった仕草、かすかな意思表示が分るようになった。途切れがちになる会話もある程度繋がるようになった。
「おはよう」
小さくいってテーブルに出した食事を食べるお客様も私の目を見ながら交わした挨拶。
「そういえば結易(ゆい)さんはいつも黒いお洋服ですよね」
「黒は死者を弔う色だから」
自分の服を見ながら嘲笑した。
「死者?」
機械的な口調で表情は能面のまま、初めて言葉を交わした時と同じような台詞を今度は私の目を見て言った。
「私は人殺しです。怖いでしょ?気持ち悪いでしょ?」

私は首を横にふり凍りついた顔にそっと触れる。
案内人用の服としての手袋を外し素手で 少しでもその冷たさを温めたかったから。
「そうだとしても貴女はこの館にいる。意味のない殺戮をしたわけじゃない」
触れていた顔がびくんとふるえる。
「違う!私は私のエゴで人を殺した。死にたくないって思いだけで私は」
「いきたいと願うのは人間誰でも潜在的にある気持ちです」
「だめだよ赤光。私なんかに優しくしたら」
初めて私の名前を呼んでくれたのに自分を陥れる言葉を平気で放ち笑う。
くすくす笑いながらテーブルにあったフォークを自分に向けて躊躇も無く皮膚に重ねる行為を止めながらずきっと視力が殆ど無い目が痛み出す。
っつ・・・
あの時の自責していた時の頃と重なるから結易さんを止めたくなるのか。だとしたらあの頃の自分を止めた琥珀先輩もこんな気持ちだったんだろうか?

痛い いたい イタイと叫んでいるけど叫びきれない泣けない子供のようなお客様
それに連鎖して直ったはずの目が痛み出す自分に
「私を殺してください」
鈴の鳴るような声で囁いた。

「生命的な死ですか?それとも潜在的な死を望んでいるのですか?」
焦点が定まらない目でしきりに私を殺してくださいとだけ呟くお客様。ここがどういう場所なのか、どんな選択があるのかあらかじめ言っているけど殺してくださいとだけ言われて
「さっきと初めてお会いした時の声の高さが違いますね。貴女は何者なんですか?」
うつろな焦点から驚愕に満ちた顔に変わる
「どう・・して分ったの?」
「こう見えても絶対音感を持っています。些細な音の変化でも私には分るんですよ」
黒いシャツの襟下を捲り上げて小さな物が飛んできた。
「声を変えたけど調節がずれていたみたいだな」
驚愕から軽く笑い声を変えていた機械を踏み潰した。
「貴女の目的は何ですか?どうして声を変えていたのですか?」
本当はもっと聞きたい事がある。だけど今自分が提示した事から切り込まないと核心にまでたどり着けない。
スカートの中に手を入れて中から銃を取り出した。
「ここにある蝋人形が希少性が高いと聞いたから」
重厚な銃じゃなく銀色の塗装がスマートな形の銃の軽さをかもし出している。
その理由で 侵入者と同じ理由で?でも侵入者特有のぎらぎらとした威圧感はなかった。力を解放する気は無いけどスナイパーを取り出していつでも戦闘態勢になってもいいように構える。
「そうですか・・」
「今となっては『だった』だけどね。蝋人形が作り出される理由もここに来る人たちの話聞いて当初の目的は薄れてしまったよ」
パァーン
終止符を打つような銃声が鳴り響く。
「いつから気がついていたの?」
「最初からです。その硝煙の香りと手を見てただのお客様じゃないと思いました。でも貴女の言葉が嘘だと感じなかったから」
「ふふ・・。さすが案内人だね。私は、いやボクは両性具有なんだ。男でもあり女でもある体で生まれてすぐに捨てられた」
身にまとっていた服のボタンを外す。
「ボクの体を珍しがって買ったオヤジから殺し屋としての教育を受け、殺し、ドラック・・経験すればするほど自分自身がどうでも良くなってただ取れば取り返す強引に現実味を味わおうと快楽を求めていった。
そうすればするほど虚しくなる。どうしてそうなってしまったのかを考えるようになった。こんな体だから・・・すべて生んだ親が悪いその足で両親を殺しに行った。そしたらなんていったと思う?」
衣類の音が乾いた雰囲気に鮮明な音を立てて落下する。
顔と同じくらい白い素肌に映えるものは痛々しい痣とタツゥーやピアス
「・・・」
「命乞えもせずに謝罪したんだよ。命を奪おうとしているボクに穏やかな顔で・・もっともっと怯えて、蔑んで死ぬ瞬間まで恐怖を与えて・・・・・・・・・・・できなかった。名前も知らない沢山の人間を殺してきたのに、何も感じなかったのに。殺す事ができなければ後は殺しを知らなかった小さな時と同じで体を売る事しか生きていけない」
「違います!!」
痛々しい痣を隠すような鮮明なボディピアスとタツゥー
「そう思うと今まで感じなかった激しい虚無に襲われた時ここに呼ばれたんだよ。こんなに汚れきっているボクにどうして優しくするの?どうして笑いかけてくれるの?」
刻まれたのは体だけじゃなくて心。激しい憎悪と生きたいという気持ちのギリギリまで自分を責めて、追い詰めて
「前に私に問い掛けた質問の答えと重なりますが。貴女は汚れきってなんかいません。深い悲しみを感じたから・・・・だからその心を壊すほどの自責があれば何度でもやり直しができます」
向けていたスナイパーを捨てて上着を脱いで彼女に羽織らせた。
不安定な心、自分に負けないように憎悪という糧をもって生きてきた人・・その心はとても澄んでいて とても壊れそうなまま・・・憎悪という糧をなくしてしまい今の不確かな気持ちのまま このままずっと長い時間現実を見ないままになってしまう。
「来ないで!触れないで・・・ボクを労わらないで」
銃口を向け近づけば地づくほど離れようとする。
「お願いです。どうか自分を陥れる事を言わないでください」
言葉と声を最大限に発して閉じかけた心に少しでも届くように声を張り上げる。
「優しい声と言葉でボクを掻き乱さないで。錯覚してしまうじゃない誰かに愛されているって」
向けられた銃口から弾丸が飛び出てくる。察知と同時に肩に痛みが走る。
「どうして避けないの?赤光なら避けられるでしょ・・」
「私の口を塞ぎたいなら心臓を狙えばいいだけです。口を塞ぐのが目的ならばどうして狙わないのですか?」
震えている手もとと泣きそうな顔で私を見ている。
「やっと貴女の視界に私が入る事ができましたね」
離れた距離を維持しながら少しずつ距離を詰めようと言葉をかけたいのに何も浮かばない。
どうすればいい?なにをすればこの方の心を救える?どうすれば・・・
「初めてだった」
「え・・・?」
「自分が生きる為ならなんでもする・・ボクを捨てた両親の死に顔を見るまでは・・頼まれるまま、流されるままどんどん体と手を汚してきたのに。誰かの命を奪おうと何も感じなかったのに」
開かれた距離を縮めようと走るけど間に合わない。
何を起こすのか、何をしようとしているのか分らない。
この後おこる事を、突き詰めた答えを聞くのが怖い・・。

「命令もされずに、何の見返りも求められない誰かが側にいた生活なんて。いつも温かい食事がでて、他愛の無い話をしてテーブルを囲んで誰かと食べる事、手を繋いで一緒に眠ってくれた事・・とても温かかった。嬉しかった。この数日喜びを感じていたよ」
泣きそうな顔から涙をこぼして笑いかける。これが素の彼女の顔なのかもしれない。
「そして今まで生きてきた事が全てばかばかしく感じちゃった。憎くも、殺したいと思っていないのに殺めてきたすべてが・・償いきれないボクは罪を重ねてしまった」
その笑顔が綺麗で、切ないほど儚く身にまとった黒いドレスに飲み込まれそうなほど脆弱にを感じてしまう。
「ありがとう赤光」
両手で銃を持ち上げ自分の頭に向ける。
「結易さん!」
「ボク一つの存在を維持するために沢山の人を殺してきたボクに・・ずっと綺麗になりたかった。何も知らないあの頃の真っ白な体の自分に戻りたかった。戻ろうと足掻けば足掻くほど気がつけばボク自身汚れてしまった。だからもうこんな物いらないの。もうやり直しなんかできないの」
引き金を引く そして今まであったはずの命が消える瞬間を止める事ができなかった。
くたくたになった人形のように床に倒れる肉体と鮮血が床を赤く染める。どうして・・・どうして届かない。言葉以上のもの体よりも曖昧な感情で救いを求めている貴女を受け止められなかった。
もう助からないと分っていても止血をして、少しでも命を繋ぎとめようとする足掻き
「・・・・・・案内人のくせに・・肝心な部分を見過ごして追い詰めてしまった」
生暖かい温もりと赤い液体が手に、服に染み込んでいく。今まで体の中に押さえ込まれていた液体が流れて止まらない。
「何の為の案内人なんですか!肝心な時に何もできないままなら私は・・・私はどうしてここにいるんですか?」
痛い・・
目が痛い どうして古傷が痛むのか・・・どうしてこんなに涙が出るのか。
消えかけそうな視界を支えている眼鏡を外して必死で痛みを抑えようと目を抑える。
薄くぼやけている左眼に見えたのは鮮血な赤だけだった。鼻につく香り、口の中で苦さが充満してくる。
「タスケテ」
そして現実か何かわからなくなって意識が消えた。

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空、青色 夕日、赤色 森林、緑色 雪、白色
それらをはじめて見た時には全て赤い色だった。視界全てを覆う赤色がただそこにあった。
「ほら・・ちょっと力を入れればいいんだよ。簡単だよ」
そう言われて渡された拳銃一つでこの身を守ってきた。
生きたいから。死にたくないから、殺されたくないから。破戒、殺人行為を繰り返し
「君は買われたんだ。だから意志をもったらだめだよ」
体の痣とともにくり返される性欲の捌け口として行為と殺人を繰り返す事が日常茶飯事の世界 罪の意識どころか感情もなくなっていった。
全て映る物は腐った肉の塊と飛び出した臓器と腐敗した匂いと生暖かい血と冷たい体。
目を閉じていても鮮明に思い出す景色。
殺さなきゃ・・壊さなきゃボクは自由になれない。この場所から抜け出さないと復讐が果せない。
「すまなかった」
そういってボクの体を包み込んでくれた両親の温もりと向けられる銃口を目の前に恐怖を振り絞って笑顔を向けた顔が、人としての感情を捨てたボクに感情を与えてくれた。
「あなたにつらいことしてしまったわね」
温かい温もり、懐かしい香り、年月を感じる顔に刻まれたしわが全ていとおしい。
罵倒された見放された時の声しかなかったのに、初めてボクに向けて笑ってくれた顔を見た瞬間ボクは汚れてしまったと痛感した。

側にいたい、ずっとこのまま抱きしめてもらいたい。
だけど汚れた体で、身を守ってきた銃を持ったままでは貴方達を抱きしめられない。
初めて手渡された武器で復讐を遂げる日にはこれを使うと決め、いつも肌身はなさず持って来た相棒がずっとこの身を守ってきた銃が重たくてたまらない。
「許して下さい・・。ボクを許して」
震えている手、涙で視界がにじんで見える。
今更何を償える?沢山の人の命を奪っておいて 何もかも奪っておいて今更何を・・ボクはできる?殺す事しかできないボクはどうやったら殺人者じゃなく貴方達の子供として抱きしめてもらえる?
どうしたら真っ白な体に戻れるの?
殺しを忘れたボクにもうどこにも場所なんて無い。誰からも必要とされないボクはどうやって生きていけばいいの?

「ん・・・」
真っ白な部屋とふかふかした温かい布団にボクは横渡っていた。
「気がつきましたか?」
「・・赤光・・」
体を起こして額に触れる。
「ボクどうしてまだ死んでいないの?」
「死ぬなんて言わないでください。貴女は一度命を無くしましたがこの館を作った黒紗(こくしゃ)さんが力を貸してくれたんです」
 心の中を見つめ直す装置に黒沙と言う人はボクを入れて能力を行使したから生き返ったと言ってくれた。
「能力?」
「はい。私は能力なんてなかったけど館を守る為に頂いた力です。黒紗さんの能力は」
「赤光」
会話をとぎるように赤光以外の人をはじめてみた。
「あ、体大丈夫ですか?黒沙さん」
・・この人がボクの命を・・・。一見冷たそうな青い色の目をしているけど声のトーンは不思議と柔らかい。柔らかそうな艶のある髪の毛は真っ白。
「まぁ大丈夫だ。それよりもはじめまして蝋人形の館を作った黒沙です」
「はじめまして貴方がボクの命を・・」
「君の為じゃない。自分のエゴを貫いただけだ」
「黒紗さん!」
赤光が制するように強い口調を発する。
「命を奪う事への罪悪感、償いを感じている君自身がこれまで奪った命から逃げないで、向き合って生きて欲しいから」
「ボクは幸せになんかなっちゃだめなんだ。怒っている、一生許さない中で償えって!ボクは償いきれ・・」
赤光のスナイパーを頚動脈に当てて
「再度君が命を絶てば自分も道づれになるけど それでもいいなら絶って下さい」
「や、、やめて」
うっすらと首筋から赤い血が流れていく。
「自分がいなくなったらこの館の清浄している力も管理もできない。今ここにいる管理人も、蝋人形として留まっているお客様も、これから来るお客様達の居場所を失うことになりますがそれでもいいなら」
黒紗だけでなく、赤光も・・ボクと同じようにここに来た人たちも・・・・
「や・・だ」
言葉が浮かばない。涙声で大きな声が出ないけど必死になって声を上げた。
「ボ・・クは誰も・・傷つけた・・くないよ。失いたくないよ」
分らない。どうして赤光も、この人もこんなに心に染み入るのか?
言い出せなかった心の中を、今まで流した事の無い涙を流して今まで言えなかった、伝えられなかった言葉が出て行くのか。
たどたどしいけど出し切った気持ちに対して
「今はただ生きてください。生きていくことで変えられるものはありますよ。ね、黒紗さん」
「ああ。あと生きようとする意思だな・・・。すまない後の事は任せる。」
「はい」
黒紗はそれだけをいい足早に部屋を出て行った。

「めったに私達の前でも姿を表さない方で、俗に言うと引篭もりだからちょっとぶっきらぼうな言い方だけど、悪い人じゃないですよ」
「引篭もりって」
俗っぽい表現だから思わず吹き出したボクの顔をみて、赤光も笑う。
「そうだ、さっき言いかけていたあの人の能力って何?」
「人の深層心理に入れる事と治癒能力ですよ」
「それって・・でも案内人がいなくても館はあの人一人でも運営できるんじゃない?」
「人の心が深ければ深いほど肉体への疲労や疲弊は計り知れません。自分だけでも一杯一杯なのに他人の悲しみに触れる事を立て続けに続けていると能力者本人も狂ってしまうからサポートとして私達がいるのです。」
 もらった能力は館を守る為だけじゃない。
ここがあるから案内人としての強さとここに来た人たちの心を受け止められる優しさを持つ事ができたんだ。
「生きることは簡単じゃないです。ですが簡単じゃない、思うように行かないから補おうと頑張れるんじゃないでしょうか?何度でも起き上がれば過去は変えられなくても、未来は変えれますよ」
ボクは静かに目を閉じた。
悲しいほど響いてくる赤光の言葉が声が人としての感情を奮い立たせてくれる。それはどうしてなのか簡単すぎて答えにならないくらい。
「起きて間もないですからもうちょっと休んでください。答えは目が覚めてからお聞きしますよ」

未来は変えられる・・か。
ここに来たのは偶然だけど今こうして穏やかな気持ちに包まれているのは事実で、気持ちの変動もまた事実でかけられた言葉だけでなくもらった物がボクの事を変えていく。
だからボクは

「自分自身の傷は治癒しないんだね」
びくっと体を震わせてボクを見た。
「君は・・どうしてここに?」
「赤光から黒紗の部屋を教えてもらったんだ」
何事も無かったように再度作業に戻るのを止める。
「命だけじゃなくて身体も直してくれたんだね」
「ああ・・真っ白になりたいと願っていたからな。ついでだ」
醜い痣と所有の記を示した汚いあいつらのかみあともきれいに無くなっていた。
「でも、タツゥーを残したのは何故?」
腕に残した白い羽のタツゥーだけは残っていた。
「君自身が望んだものかと判断して。空を飛ぶ事で今まで見た景色から抜け出したいという願望と思ったけど不服か?」
首を横に振って作業を止めている手に力を込める。
ずっと欲しかったボクの気持ちをわかってくれるだけじゃなく、心の渇きを潤してくれる存在、ボクだけが強くなるのでなく、力を貸してくれた人にボクの力を貸せるような存在
「他人の悲しみを受け止めて黒紗はどうして一人でいるの?どうして一人で抱え込んでしまうの?」
困ったようにため息をつき
「奇跡を知ってしまえば何度でも求められてしまうから。すがられてしまうから」
 ボクのような一度命を落とした人間をよみがえらせる力は癒しでもあり、神頼みに近い念を持ってしまう。少しでも長く生きたい、少しでも痛い思いを味わいたくない欲求を満たすための道具として扱われるまで・・きっと沢山の嫌な仕打ち、理不尽な願いを突きつけられてきたんだろう。
「だから一人でいるの?包帯を巻くのもできにくいのに」
無動作に巻かれている包帯に触れてきれいに締め直すボクを止めずにおとなしく巻かれている。
「一人に奇跡を見せてしまえば、我も我もとよるのと一緒で、悲しみも受けた側は自分以上に悲しみを与えた相手だけでなく他にも・・と重ねていく。受けた人はまたその人と、全く関係ない人に悲しみを与えて。それをくり返す事で一人だけでなく沢山の人が理不尽な悲しみを植え付けられるのを見てきたからな」
「沢山黒紗は見てきたんだね・・。だからその悲しみをぶつけないように一人でいるんだね」
少しでも冷たい身体に温かさを与えようと力強くその身体を抱きとめる。
抵抗もしなければ同じように抱きしめ返す事はしない対応の黒紗。何もしなければそれ以上の物は返ってこないと分っているからそうしているのか?

「一人じゃない。この場所や案内人もいるからな。自分で作った場所で起こる結果を見ることで自己満足できているし、自分の領域に男も女も要らない。入れないそれだけだ」
・・っこの男は〜・・・
「傍から見たらそのつまらなそうな生き方や偏ったビジョンをギャフンと言わせるぐらい変えてやりたくなったよ」
「は?何を言っている。うつけもの(=ばか者)」
肋骨折れそうなくらい力を込めているから、やや苦しそうに答えた。
「ボクが死ぬなら自分も死ぬって言っていたよね。だったらボクも変わるから、ギャフンとその生き方を340度変えていくようにボクだけが頑張るんじゃなくて、黒紗も頑張ってよ」
「・・・残り20度はどうした?・・」
不思議そうな顔で淡々と指摘されるが勢いで飛ばす。
「細かい事はガタガタ言うな!」
「・・おい・・」
薄明かりの部屋の中、あるものは必要最小限の家具とお客様のファイルは赤光のように装飾品も絵も何も無い部屋が今の黒紗の中を表しているみたいだ。
「黒紗も変われるようにこの真っ白な身体で祈るよ。この気持ち止めたくないから」
 これは今までの懺悔でもあり祈り。これからを生きるようにこの気持ちを忘れないようにする儀式。
昔見た本を思い出しながら懺悔のポーズをとって生まれ変わった体で目を閉じて祈りを込めた。
「君の気持ちは何となく分ったから・・・っつ・・いいから服を着てくれ」
「じゃボクここにいてもいい?」
「前の君を知る人はいないようにしたんだから、命の心配は無いぞ」
「命の保証じゃなくてここに居たいの。そばにいなきゃ不器用な黒紗がまた怪我をした時に雑な治療をしてしまうでしょ?やっぱり迷惑だから切り捨てる?」
「自分の判断一つで君を捨てるとか捨てないとかできやしない。君はモノなんかじゃないんだから」
ずっと道具だといわれつづけたのを打ち砕く言葉は・・
「一つだけ教えておいてやるよ。どんな言葉もきれいな嘘も君が見ようとしなければただの雑音でしかない。君の気持ちを変えられるのは君自身が本格的には動くしかないんだ」
「やだな。すっごくくさいよその台詞」
思いっきり噴出してらしくない黒紗の言葉に大笑いをするボクに
「結易。居たいのなら思う存分ここに居て、変える事ができるなら変えてみろよ」
名前を呼ばれて違和感と嬉しくてどきんとする。でもこの名前は仮に付けられた名前であり殺し屋としての名前

「名前で呼んでくれて嬉しいけど・・・あの頃を思い出すから、もうこの名前で呼ばないで」
そっと脱いだ服をボクにかけて
「分った」
「黒紗がつけて欲しい。ボクに命を与えてくれたのと一緒に名前が欲しいよ」
「名付け親か、じゃ<デンジャリングマスター5号>って言うのはどうだ?」
で・・でんじゃーって
「ヤダヨ。そんなヘンな名前。って他に4人ぐらい居たの?」
首を大きく横に振って反対しているボクの身体を抱きしめて耳元で
「<白夜>」
 確かフィンランド北端25月中旬〜7月中旬にかけて1日中太陽が沈まない日が続き、ミッドナイト・サン(真夜中の太陽)「夏の長い1日」の事だったよね。
「闇を知っているのにその明るさを惜しげも無く自分にぶつけてきたから。嫌か?」
「ふふふ・・やっぱり黒紗はロマンチストだね」
くすくす笑いボクを突き放して
「もう寝る。力を使ったからとてつもなく寝たいんだ」
「眠いから?」
「ああ・・さっさと出て行ってくれ。」
作業をしていた椅子を離れてすぐに眠りについた顔を見ながら、悪戯も何もしないで出て行ったのは耳たぶまで真っ赤になったのを発見したから。
 ここに光が無くてもボクには分る目には見えない光が、存在がここにあるからボクはここにいたい。

「ここに残るって」
赤光が作った朝食を並べ、席につく前に赤光に話した。
「そ。なんていうのここって男ばかりでむさいからさ。華があったほうがいいかなーって」
事実だから何も言い返せないけど、生き生きとしている結易さん、じゃない白夜さんが別人のように見えた。
「だから今日は珍しく黒紗さんもいるんですね。じゃ青蓮も呼んだ方がいいですね。ちょっと待っていてください」
 きっとボクはこのまま変わらない場所で過ごしていくのだろう。
現世には何の未練も無い。両親もボクを思い出せばずっと苦しめてしまうだけだから。
深い悲しみを背負った人がいる その人がボクを受け止めたようにボクもその人を受け止めたいから。そして何年かかっても・・死ぬまでにはボクがいる事を感じてもらうように。

 軽く自己紹介をして年代が近いのか青蓮と白夜さんは語り始める。久々ににぎやかな食事風景を見ながら
「そしたらオレの後釜になるって事?」
「まぁそうだね。4代目案内人になると思うよ」
「おい・・そこまで自分は考えていなかったぞ」
「だって 黒紗に素肌見られてしまったし、私にあんな事やこんな事した仲じゃない」
ぽっと恥らう白夜さんに
「誤解を招くような発言するな」
表情は怒っていないけど静かに怒っている黒紗さん。
「じゃそういう仲にしましょう」
黒紗さんへのアタックかと思ったら
「せ・・青蓮見てはだめです」
目の前で二人のキスシーンが繰り広げられた。にっこり笑っている白夜さん
「まずはスキンシップを謀ってみました♪」
女性・・から唇を奪われてプライドを崩されたのかうな垂れている黒紗さんが
「魔界へ帰れ」
静かに言い放った。
「ま・・ちょっとまって、何その黒紗の後ろでうごめいている謎の生命体は」
「あ、黒紗は召還もできるんだって聞いていなかったっけ?」
青蓮が珍しい生き物をみてわくわくした目で見つめているが大慌てで近づきまいとしている。
「いやぁああ。ぬるっとしていそう。って魔界って何よ。どこよ?」
「お前と同じような生命体が一杯居るようなところ」
「ボクの単位は人であって、その後ろのはどう見ても一体じゃない。単位からして違うって」
二人ともかみ合って居なさそうで、会話を聞いていると面白い。
それに今まで見れなかった黒紗さんの顔や感情をいとも簡単に出せるのは白夜・・貴女しかいないんですよ。
「はいはいはい。食事が終ってから遊んでください」
半ば保父さんの気持ちを感じながら にぎやかになったこの館と新しい案内人候補を迎えるための料理を作るに再度キッチンに避難した。