野獣死すべし
LUNA SEAのTRUE BLUEかPENICILLINのロマンス
貴女の声が聞こえないように耳をふさぎ 肌に残っている貴女の温もりをかき消すように血を流してきた。
ただ貴女が染み付いたこの体をもって 何もない何も残っていない空虚な自分を認識するのが怖かったから。
僕は何処へ行くのか?それもわからずにただ貴女を無くしたまま漠然と何も考えずに日々を送っていた
あの時 あの日まではまっすぐに僕は自分の事を見ずに歩いていた。
「赤光兄ちゃん」
人間的年齢では16歳で止まっているが、一生を終える時間を過ごしている青蓮が屈託のない笑顔で私を呼ぶ。
「どうしましたか?そんなに慌てて」
室内の整備を終えて青蓮の元へ向かう
「お客様の相手をした後もすぐにまた別の作業をしているから、少しでも落ち着いて欲しくて」
差し出されたティカップの手元を見ると
「・・青蓮お菓子も作ったんですか?」
指先にはやけどの跡と思われる赤さが目立っている。
「紅茶だけじゃ味気ないからスコーンをと思ってうっかりベーぐると同じものだとおもって油の中に入れたらこうなっちゃった」
苦笑しながら火傷した個所を隠すようにスコーンらしいものを差し出す。
青蓮は未だに料理をまともにつくったためしはない。
一種の才能なんじゃないかと琥珀先輩はぼやきながらあいつにだけは料理はまかすなと口をすっぱくしていっていた。
「私の為にわざわざありがとう。でもちゃんと火傷の跡冷やしてきてくださいね」
味覚はしっかりしているのに、出来上がったものは物体Xに近い理由は作る課程においてその料理に合った機材利用が出来ないんじゃないかと思いながら
まずは機材の使い方をと色々と覚えてもらうようにしてもらっている。
折角の厚意を無下に断るのもとおもい、作業を中断してティパーティを決行することに
「赤光兄ちゃん」
「何ですか?」
「前からききたいことだったけれど、どうして右目だけめがねなの?」
動揺を抑えたつもりだけど
「もしかして聞いちゃだめだった?」
申し訳なさそうにおずおずと言われ首を横にふった。
聞かれためがねに触れ動揺を閉じ込めていつもの調子を取り戻すように数回触れる。ガラス特有の冷たさ その冷たさですら今では動揺を抑える物に変わっている。
「いえ青蓮が気に病む事はないんです・・・・ちょっと長くなりますが昔話を聞いてくれますか?」
「え?」
「私がまだここに着たばかりで自分の事しか考えていなかった時の話」
その頃の私の生活は琥珀先輩の助手としてお仕事を手伝いと侵入者を阻止するために教えてもらっていた訓練を受けている身の上だった。
作業以上に武装のために受けていた訓練に集中していたのは恋人を救えなかった自分自身をただ攻め立てるように
自分自身に憎悪を向け流れる汗も忘れて、流れる血ですらかまわずに作業に、訓練に集中していた。
何かをしていないと思い出すから 自分を責めながらも、自責に耐えられずに心は貴女を忘れようとしているそんな状態の時に本当の赤光としてくれた彼女と出会った。
「私は何もかも失ったんです」
その人はヒステリックな言い方で目の前にいた先輩に言った。
年はまだ年端にもたっしていない女性でただ「死にたい」とか「私が・・」と途切れ途切れに繰り出す言葉
艶のある髪の毛をしきりに利き手で引っ張り、引っ張るのに飽きたらくしゃくしゃに乱しての繰り返し
一見落ち着きのない行動で見ている側はいらいらしてしまうけれど、先輩はその様子を見ながら苛立った様子も見せずにいつもどおりのまま話を進める。
「何もかもって言っていたよな。」
深くソファーにもたれかかって髪の毛を引っ張っている手を止めるためにその人の手の上に私が煎れた紅茶を差し出した。
「声少しかれているぞ。折角のいい声が台無しだこれでも飲んで気持ちと声を落ち着かせろよ」
案内人なる者お客様にはタメ口なんて厳禁なはず・・
私が今まで見る限り先輩はお客様にはタメ口を使っている所を見たことがない。どうしてタメ口なのか
お客様を見ていたけれど今度は先輩の方を見ながら二人のやり取りに耳をかたむける。
「どうして一番知られたくない人に自分の嫌な部分がばれちゃうんだろう。皮肉だよね」
紅茶を飲んで途切れ途切れその人の口から漏れる言葉
「必死になって隠そうとすればするほど不安になっていく 今日はよくても明日になったら・・って怖くて眠れない時が増えて」
声を押し殺して泣き出しそうな顔を隠す事も止めて
「・・・こんな思いするなら出会わなきゃよかった。そうすれば私は穢れずにすんだのに。何も知らないままずっとこのまま」
穢れる?何が?・・
震える手、震える声そして涙と同時に何も見ない目 目の前にすわっている先輩ですらいや、何もかも拒絶をするように彼女は視線をそらした。
何から逃げたくて?いったい何が彼女をそうさせたのか私は立場を忘れてその人に駆け寄ろうとするのを止められ
「気配に敏感なお前が簡単に死角をつかれるなんてな。気をつけろよ隙だらけだぞ」
「え?」
何の事だかわからずに聞き返そうとするが
「わりぃちょっとタバコが切れたからお前が相手をしろよ」
気が付けば先輩はすでに私の背後から、出口の近くに移動してそのままドアを閉めた。
冷たくなって香りもなくなっていく冷めてしまった紅茶以上に渡した彼女の顔は青ざめている。
小さな体が小刻みに震わせて一度も顔を上げずにうつむいている状態が続く時間がとても長く感じてしまうのは
「はじめまして。僕は赤光です貴女は?」
耐えられない圧迫感に負けて私は声を出した。
本当ならこのまま黙って相手が切り出すのを待った方がいいかもしれないけれど、このままじゃいけないような気がしてならなかったから
「・・名前言っても私しんじゃうんだよ。もう何処にも 何処にも居場所なんてない歩ける力もないんだから」
「何が怖いんですか?」
小刻みに震えたいる体が勢いよく震えずっとうつむいていた顔を上げた。
やっと向き合ったのに私は彼女に何が出来るのか?今更だけどどうしていいのかわからなくなる
理由を問いただす事 何があったのかを聞くために彼女の許す限り心を開かせる事解決する手段よりも先に私が彼女に何かを言っていいのか分からない。
だって私は私自身から逃げ出しているのに
・・・本当に私は彼女に何かを伝えていいのか?何かを教えるとか救えるとかできるんだろうか・・
「理解して欲しい人に黙ったままじゃ前には進めません。もちろん今まで通りのままの状態にもなれません。理解してもらいたいなら相手の顔を見て貴女の気持ちをぶつけなきゃ前にも後ろにも何処にもいけませんよ」
閉じたまま何も言わないまま抑えきれない感情を自分の中にぶつける
解決したいと思っていても目の前にある目には見えない痛み、見えない壁、見えない傷が怖くて苦しくて自分の中に自分の気持ちを閉じ込める。
怖い物から逃げるように 怖い物から少しでも自分を守るように
言葉を消す 目を閉じる 大丈夫だと笑って嘘をついて痛みから、壁から、傷から逃れるように忘却しながら生きていく事
痛いから 怖いから 苦しいから
「死んでしまってもそれがすべての終わりなんかじゃありません。貴女が今思っていること、願っている事はきっと貴女の傍にいた人に残っていますよ」
それだけじゃいけない
「貴女は貴女が思っている以上に誰かから見守られているんだから」
「・・・どうしてそんな事がいえるの?」
うつむいたままの時間が苦しかったのは大切な人を失っている今の自分が目の前にいるようだから
「さっきからずっと慈しむように手の中にあるものを包み込んでいるから。よかったら見せていただけないでしょうか?」
彼女は目を閉じて小さな呼吸をして目を閉じたまま私の前に手を差し出した。
手の中におさまっているのはがらすだま 私が何かを言うよりも先に
「これをくれた人に会う為に出かけたけれどその先で事故にあっちゃってね・・・・最後に覚えているのは真っ白な服も真っ赤になっている姿だった」
再び強く見せてくれたガラスだまを握り締めて
「きっと今ごろ私の体すごいことになっているんだろうなーって」
声を絞り出そうとして表情を変えているけれど泣き出しそうな顔と声は隠し切れていない。
「真っ白な服であの人に会う約束をしたけれど今まで通りに動けないダメージだからね役割を果たせない私に存在価値なんてあるわけがない」
うっすらと笑うけどその笑いは自嘲だった。
「いらない・・あの人の傍にいられないなら生きる理由も希望も」
「じゃ死ぬ理由は?絶望は?」
「先輩・・」
何も言えずに立ちすくんでいるだけの私の耳に聞こえてきた言葉はあまりにも鮮明な残酷さを秘めていた。
「もう一度今まで通りなんて戻れないからだから・・」
小さく反論する彼女
ーリカイシテイルダロー
彼女が選択することを その選択が自分の望みとはちがうってことも
彼女でも先輩でもない誰かの声が聞こえる いやこれは自分の声だ。
消し去りたくても消せない自分の中の見えない個所思い出せない自分の過去から出てきた声なのかもしれない。
両腕で自分の体を抱きしめるようにきつくきつく痛みを残るように締め付ける 皮膚を通しての痛みで二人を確認しようとするけれど視界から二人が消えて与えていた痛みですら消えてしまった。
真っ暗で何も見えない 聞こえない
つかめない自分の気持ちを探るように壊すように忘れるように嘘をつく。
嘘をつきつづけて自分の気持ちを隠すことに嫌気を持っているけれど今までの嘘にしがみつかなきゃすべてが見失ってしまうから。
体が凍る 凍てつく壊れそうなくらい何も求めずに怠惰に時間を過ごす事が
「じゃ生きる理由は?」
そう聞かれてもきっと答えられない
「じゃ死ぬ理由は?」
そう聞かれても答えなんて持ち合わせちゃいない。
何も望まないまま生きる時間はただ長く、欲にかられない生き方は平坦でそして実りがないことだけは知っていた。そんな時に偶然であった貴女に私は恋をした。
そんな自分にはじめて生まれた欲
貴女の体を抱きしめながら その温もりに甘え貪り尽くすように何度も何度も抱き合う度にその欲は膨れていく
限界を超えてさらにもっと先を求めていく。
心も体も焦がれて、いっそのこと自分の手の中に壊してしまいたくなるほど膨れていく欲と一緒に知った自分の本性が貴女を壊さないように、傷つけないように歯止めをかける。
歯止めをかけていたのは怯え
初めて出来た大切な人に何も持たずに一人で歩いて来た自分と同じような気持ちを与えないように
初めて出来た大切な人だから永遠を望んでしまうことに
押さえつけていた欲望が声をあげて醜い所有を望むことに
貴女がいなくなることと自分の中の醜い感情に逃げるように震える体を抱きしめる。
貴女を愛したいという気持ちと一緒に囁いた言葉
「傍にいてどこにも行かないで・・僕を一人にしないで」
呆れるくらい私は何も望まなかった分だけ貴女にその望みを押し付けた。
少し貴女は困ったように笑って言ってくれた言葉
「・・・痛・い」
言葉と一緒に襲い掛かった右目が裂けそうなくらいの痛みと真っ白な貴女が血の色に染まった光景
目を閉じても手で目をふさいでも目を開けているときよりも鮮明に見える。
「おい!?赤光」
手の動きを止められるのは彼女と先輩ぐらいしかいないそう分かっていても体は今目に映っている光景の中にいる人物ぐらいしかとらえていない。
止められた手の力が貴女じゃない温もりと察知してしまえばすべて私を蝕む存在だと示すようにその手を払いのける。
「触るな」
私から払いのけたはずなのに温もりが消えてしまえばまた不安になってしまう。
抱き上げて呼吸を確かめる一秒一秒ごとに消えていく温もりが重なってしまう
その喪失感に今度は埋めるように自分の体に痛みを与える。
サケル イタイ クルシイ
何から 何が?この喪失感が怖くて逃げたくて彼女の温もりじゃないものすべてを壊したい衝動にかられる。
あの光景からうっすらと見える飾り立てられたこの部屋、照明、窓、そして二人の顔
「いいたい事あるならいえよ。言えないならそんな目をして理解してもらおうと思うなよ」
今の私の顔は酷い顔なんだろうとかすかに残った理性ではそんな事を思っているけれどそんな理性もすぐに消えていく
「言えないならその分気のすむまでこの部屋も、俺も傷つけろよ。それでお前が今何かを感じるなら思いっきり壊せよ」
右目の痛みから逃れる為に自分で自分を傷つけた痛みが加速して何もいえない。
割れたガラスの音が聞こえた後に声が聞こえた。
先輩じゃない声
徐々に痛みが体を支配して動く気力も奪って沈んでいくのを感じながらその声に耳を傾けた。
小さな声だけど聞き取れた泣き声
沈みかけた体の痛みを振り切ってその声が聞こえるようにもっとよく聞き取れるように体を起こすことに力を注ぐ。
「・・泣かないでください」
体を起こし手で伏せていた視界には泣いている女の子が見える。
痛みが邪魔をして傷つけたときに作った傷から流れる血が邪魔をしてうっすらとしか見えない。
あの光景が何時の間にかその女の子に代わって、普通の状態よりも見えない視界にその女の子しか見えないいや見たくなかった。
「私の声が聞こえるの?」
「ええ」
痛みが勝って体が下に下に下がっていくけれど視界に映っている女の子から目をそらしたくなかった。
重なる視線、一瞬だけ見せた驚くような表情と笑顔を見た瞬間再び意識が消えた。
「ずぶといですね」
再び目が覚めていた時には左目の視覚情報しか見えなかった。
「こんの馬鹿赤光!!俺に手間をかけさせるな」
「先輩・・」
「まぁ今回のお客様って俺の苦手なタイプだったけど・・」
ん?お客様
「あ・・それであの方は?」
最後に見えた彼女の姿を求めてあたりを見回すけれどいない。
「お前の看病を手伝って客室で寝かせている。『あの人を助けて』って必死になって手伝ってくれたからな後でちゃんと礼言っとけよ」
「ええ。でも・・」
「あのお客様は現世に戻る。お前の姿を見て心を開いたんだから」
「私が?」
「お前は他人の傷を理解し、その痛みを共有できるが俺にはそんな事できないからな・・痛みを感じるよりもしみついたこの役目と場所があるからそんな感情を知ってしまったらこの場所も場として成り立たない。だから俺はお前と出会った時に・・」
「オレ何があっても赤光兄ちゃんの事大好きだから。いつも優しく笑っている赤光兄ちゃんじゃない面を教えてくれてすっげー嬉しいし」
顔をくしゃくしゃに変化させながらストレートな気持ちを言葉に囚われずに青蓮は私に言ってくれる。
いつでもどんな時でもそんな部分が貴女やそして彼女と似ていると感じたからこんな話をできたのかもしれない。
「ありがとう青蓮」
くすくす笑いながら頭をなでる私を疑いの眼でみながら
「超本気だからな!」
「わかっていますよ」
ここは貴女がいない空間それでも僕はこうして笑っていられる。
散々貴女を求めていながら貴女がいなくなった今でも いや彼女と出会ってからこんな風に笑えるようになったのかもしれない。
僕と同じ境遇のなかで僕以上に辛い体験を持っている人、気持ちを持っている人がいることを教えてくれたこの場所で
時間も制限もないこの館で
貴女がしらない僕『赤光』として存在できるから今は自分で命を絶つことを死ぬ事を望まないようになった。
誰かに触れる事で僕が貴女にした罪も消えないけれど、もう少しだけ新たに生まれた欲を許してもらえませんか?
僕は自分が何者か分からないように記憶が飛んだ状態まで自分を追い詰めた状態で
何の役割も持たない僕に『赤光』という場所と名前を与えてくれた先輩に対して そして新たな『赤光』としての僕を生み出してくれた彼女に対して
忘れている過去も今も そして先が見えない未来もこの両目で見ていきたいから。
いつか来る終わりがくるまで、僕は貴女を忘れはしない。
もう逃げないよ
悲しいから 苦しいからそういって記憶を飛ばせて痛みから逃れていたけれど、この体に残る貴女がくれた優しさから
今度は逃げないよ
終わりがくるまで僕は身も心もこのすべてを貴女に捧げるから
生き急いで空回りしていたとしてもそんな僕を見ていて変わったけれど 最後に見せてくれた笑顔に対して見せた表情よりはいい顔をしていると思うんだ。
だから今だけはこのままで・・・。
「自分の記憶を飛ばしてでもその大切な存在と似たようなものを取り戻すことはできないかって思ったんだ。
お前なりに生きて知らず知らずに変わることの変化を見てみたい気持ちにかられて野郎を介抱したってことだけど・・・・俺が善意でお前を助けたとか思うんじゃねぇぞ。
同じような毎日でも人の気持ちによって自分の変化を受け入れていけば代価なものは手に入るはずだからな」
再び意識が飛びそうなときに言ってくれた先輩の言葉
そして彼女の言葉
介抱してくれた事も含めて話をしながら現世への案内をしているときに
「え?」
「目そらしていたこと教えてくれてありがとう」
不意に顔を引き寄せられて至近距離で彼女の顔と目が重なる
「赤光さんのこと介抱しながら自分以外の誰かのために痛みをわかってくれたってこととあの時の声を聞いてくれたこととても嬉しかった。
だから元に戻れない状態でもがんばれるって何だか分からないけれど勇気がでてきたんだ だから赤光さん」
今でも残っている彼女の言葉『目をそらさずにいて』たった一言と僕以外の人は思うかもしれないけれど
前の自分と似ている彼女がくれた言葉とちゃんと僕の目を見て笑ってくれたことは今も鮮明に僕の心に残っている。