純色
BGM 今回のお客様サイド→Cocco「熟れた罪」「水鏡」 アイブサウンド「Fortress」
赤光サイド→TMR 「BORDING」、アイブサウンド「Dream New would」
どんなに思っても・想ってもあの人は戻ってこない。
どんなに願ってもあの人には届かない。
どんなに考えても、声をあげて泣いてもあの人は振り向いてもくれない。
わかっていても浮かんでしまう、考えてしまう、願ってしまう。
「ただすがっているだけなのに」
今日も私は自嘲しながら飲みなれないアルコールを飲み干す。
ただ私のことを好きじゃなくなっただけ。
ただ私のことを嫌いになっただけ。
ただ二人から一人になりたかっただけ。
考えられる理由はその中の3つ。3つの中から一つだけかもしれないし重複しているのかもしれないけれど。
突然の別れに対して私はただ「わかった」と言った。
半端に食いついて理由を尋ねることは醜悪で、振り向きもできないあの人に執着してしまうことは時間の無駄だから。
頭でわかって出てきた言葉は「付き合ってくれてありがとう。元気でね」
驚くほど冷静だった。
そんな私が無駄だとわかっているのにこんなにも苦しいのか、切ないのか声をあげて泣いているのか解りたくない。
解ってしまうことは自分の弱さを肯定することだから。
「私を呼んだのは貴女ですか?」
ん?
「やだ・・幻聴まできこえる」
耳の中に心地よく響く声だった。
「辛いんですか?苦しいんですか?」
尋ねれられて一呼吸おいて返答する。
「・・辛くて苦しくないといえば嘘になるわね」
思い出にしがみ付いて体に心に残っている温もりを消すことがこんなに辛いなんて・・
鮮明に残る別れの言葉を抱えて生きることがこんなにも苦しいなんて・・思わなかった。気付かなかった。
「少し私の場所へ来てくれませんか?」
「私の居場所?」
「はい。今の貴女に必要なものがわかるはずです」
「私に必要なもの?」
・・・・前にも後ろにも進むことも後進することも怖くて動けない今の私に何が必要かなんてわかっている。
「時間でしょ?時間だけがこの苦しみを乗り越えられるって言いたいんでしょ?」
「いいえ。貴女がそうやって声も立てずに泣いているから」
「だから私は大丈夫・・・・・じゃないよね。幻聴にまですがっているんだから」
こうやって何かを感じることを殺したい。
「私の場所へきてもらえませんか?」
こうやって何かを聞くことを失いたい。
ここじゃないどこかへあの人がいない場所へ行きたいと考えることを消したい。
私は声も出せない。
唇をかみ締めて闇の中に佇むだけの生きた抜け殻。
「助けて」
誰に言うわけでもなく無意識的に発した私自身の声が生々しく私の耳に響いた。
声を振り絞って出た言葉と同時に空間がゆがみまぶしい光が視界に広がった。
突然の光にビックリして目を閉じる。
このまま目を閉じていたい。苦しいことから目を閉じ、天然色が広がる世界から闇に落ちていきたい。
だけどそれを許さないのは
「初めまして。蝋人形の館の案内人赤光と申します」
幻聴と決めていた声の持ち主が私の目の前に立っていた。
色素の薄い髪の毛と目の色、すらりとした体に着ているスーツ?か背広がよく似合っている。ああいうのを着こなし上手っていうのかな?
私は関係ないことを考え出している。
赤光と言う人に見惚れながら今までいた景色が違うことに気がついた。
「ここは?」
「ここは蝋人形の館といいます。日常から心が疲れた方にきてもらい選択してもらう場所です」
「疲れ・・そうね。何もかも吐き出して空っぽになりたい。何も持ちたくない」
私は感情なんてなくなればいいのに。とそのとき思っていた。赤光の寂しそうに笑っていることに気がつかないまま。
そのときの私には選択することまで耳に届かなかった。
「私ね失恋したんだぁ。全身全霊あの人のことを思っていたけれどかえってそれが重荷になったのかもしれない」
口が勝手に聞き分けを利かずに開く。
だって恋愛は野蛮だから。
相手の心のすべてだけでなく自分自身の心をさらけ出してしまう。
いい所もいやな所もすべてが透けて見える。
真っ暗な闇を照らす光は残酷にも何もかも暴いてしまうから。
恋愛はただひたすら特攻してその特攻は気持ちがなくなった時点で消えてしまう その後先には何もないから。
だから愛はすべてを飲み込んでしまう。
だから私は恋愛なんてしたくないと今強く心の中で願ってしまう。
そんな私の中の気持ちを誰かに聞いて欲しいだけなの?それとも話すことに集中して考えることを遮断させたいから?
この空白感を埋めたい。自分をかき乱してひっかきまわして何も考えることも躊躇することも忘れるくらい楽になりたい。
だからアルコールの勢いも重なって口だけが動いてしまう。
「やっぱり人間熱くなっても無駄なのかなぁ・・・。迷惑なのかなぁ・・この思いも」
あの人がいた記憶すべてが私の中で重たく切なく圧し掛かってくる。
それは重圧のように、言葉のように体にも心にも圧し掛かって消えてくれない重みと鈍い痛みが体中に走って消えてくれない。
「無駄でも迷惑でもありませんよ」
「え?」
優しく笑いかけてくれる赤光という男の人の言葉が私の中の痛みを一瞬止めてくれた。
「貴女が思った分だけ貴女が思っている人は笑ったり、怒ったり表情を変えて、言葉を変えて貴女にしか伝わらない気持ちが伝わることは幸せなことじゃないでしょうか?」
だってその声が小さな子供を諭すように優しいから。
「貴女が思っている人がくれた気持ちの分だけ貴女は変わっていったんじゃないですか?その変化はとてもすばらしいことだと私は思いますよ」
こんな私がすばらしい?
うつむいて、目を閉じて、震えながら現実からも逃れようとしている私が?
「そうじゃないよ・・。私は動けないもんもう心も体も・・」
唇が凍り付いて動けない。どんどん無表情になっていくのが皮膚の筋肉を通じて分かってしまう。
今の私は終わりのない永遠の時の闇を彷徨っているようにも感じてしまう。
その変化に焦りながらも心が冷え切ってしまうことを望んでしまう。
まるで昼と夜が重なるような感覚、自分が生きているのか死んでいるのか分からない状態。
今の私は一体なんだったんだろうか?
無になりたいのに空っぽになって何もかも忘れたいのに赤光の言葉にふらついてしまう無能な体と心をもっている私は一体?
私の中でリンクしている複雑な感情の中で
やるせない虚しさと切なさが重なる鈍い痛みが背中合わせの心で
思い出にすがりながら好きだったあの人を思い出し、たぐりよせては忘れなきゃと理性で消していく歪んだ気持ちで
本当のあの人じゃない私の中で築き上げたあの人を今でも覚え心も体もあの人を呼んでいる状態で
廻る、巡る行き場もないこの蝋人形の館で
何もかもを忘れたくても忘れられない今の私のままで
この震えている指と胸を誰か止めて欲しいけど今の私には止めてもらえる資格なんて何処にもないのに。
「いいえ。ちゃんと動いていますよ。」
そっと私の手をとり私の胸に手を当てる赤光の細い指をただ見ているだけの私を強い瞳で見詰め合えしてくる。
その目には嘘も一欠けらの同情(蔑む気持ち)もなかった。
赤光の目には優しさと強さを感じてしまう。その目を見つめることが今の私には出来なくて赤光の細くて綺麗な指先を見ることしか出来なかった。
「私の指じゃないですよ。」
苦笑しながらゆっくりと私の手のひらに自分の手を重ねかすかに唇が触れるか触れないかのキスをしてきた。
「貴女の心は笑ったり怒ったり泣いたりしてこんなにも元気に脈打っているじゃないですか」
何も抵抗しない私にさらに優しく笑いかけて私の答えを待ってくれている。
何かしゃべらなきゃ。
この深い闇の世界 許せない自分の中の記憶と感情 たどり着いた赤光という人に対して何か言わなきゃ伝えなきゃという葛藤が湧き出てきた。
このまま一人で今思っている気持ちも願いも捨てて、何もかもを断ち切れたら楽なのに。
できない。
早く一分でも一秒でもこの気持ちに別れを告げなきゃ。誰にも気付かれないように始末させなきゃ。
ただひたすらそう思っていたのに。
どうしてなの?
どうして赤光はこんなに優しいの?
思い出してしまうあの人の優しい声と瞳 辛いよ。
ずっと持っていた虚勢が崩れていく瞬間だったのかもしれない。ぱらぱら崩れて壊れていく心の欠片。
それは小さくて儚くて、そして脆い。
すっと流れ落ちる涙の温かさで我に返った気がする。
「どうして・・」
「え?」
「どうして私の前に現れたの?赤光さえいなければ守れたのに」
私の中にある小さなお城
「諦めてしまえば楽だったのに。どうして、、私の前に貴方がいるの?」
自分で何を言っているのか分からない。唇が何かに操られているみたいに動いて止まらない。
「もう追いつけないあの人をまた追いかけたくなってしまってもう無理だって決まりきっているのに」
私の断絶の祈りの果てにあったものはやっぱりあの人が忘れられずに、好きで仕方がないということ。
もう隠せない私の気持ち 私の中にある一番強い気持ち 私のお城が再び構築されていく。
「やっと貴女の本音がでましたね」
「え?」
赤光は私の上に重ねてある手を離していく。
ふいに離れた温もりにすがるように私の腕は反射的に赤光の指先を探り当てようとする。
後何センチかで重なる時にまたあの光が私の視界を覆った。
さっきみたいな視覚に注がれる光は痛くて、明るいけれど冷たかった。
けれど今度の光は違った。
同じ光なのに何故?
長かった闇が多かったせいか光に適応できないだけどどうしてなんだろう同じ光なのにこんなにも温かい。
「さっきも今も貴女の心の中に流れている時間の中に貴女はいたのですよ」
姿は見えないけれど私の耳に甘く響く赤光の声が聞こえてくる。
「心と体が裂けてしまうくらい張り詰めていたから苦しかったんですよね。いえ貴女の中にある強い気持ちを覆い隠そうとしたから」
にじんで見えにくい視界の中には、目に映らないけれど鮮明にあの人が映る。
だけど幻だからすぐにかすんで消えてしまう。
少しでもあの人に触れたくて手を伸ばすけれど闇の中に飲まれていく。
それはまるで
「あなたが好きという私の中にある今一番の気持ち」
忘れなきゃ、消さなきゃ、もう何もかも見えないように自分の中でリセットしなきゃいけないという意識が私を再び闇の中に誘い出す。
だけど息つく暇も生み出さないように温かいものが体中に伝わってくる。
誰かと手をつないでいるみたいな忘れていた温もりが皮膚を通じて呼び合う。私の中を伝って。
どうしてさっきの光と今の光 同じ光なのにこんなにも違うのかやっとわかったかもしれない。
目を閉じてまた再び目を開ける。
そこに広がっているのは眩しい景色。
「私自身が光っているからさっきと今の景色が違う」
さっきは私自身が淀んでいたけれど、今の私は違う。私自身が明るいから周りにある闇が眩しく見えるだけ。
「そうです」
私の中に聞こえていた赤光の声が遠く感じたと思ったら目と目が合う距離の先に赤光は立っていた。
「貴女の中にあるその感情を消してしまうなんて悲しいこと思わないで欲しかった」
寂しそうな笑みを浮かべ私の手の中に小さなブレスレットを渡す。
「これは?」
「ここにきた人には必ず渡すものです。真中にある石の色を見てください」
言われるまま真中にある石の色を見た。
「綺麗なグリーン」
細かい彫刻がほられている石を包んでいる色は目に優しい緑だった。
「貴女の中にある温かい気持ちをさしているんですよ。強くてなによりも輝いている貴女のその気持ちを忘れないで下さい」
「で、、でも」
あの人が好きという気持ちで何処までも飛べるけれど、忘れないといけない。
そういいかけた言葉よりも先に赤光は言葉をつなぐ。
「両思いじゃないと恋はできないんですか?」
「え?」
「相手の方に迷惑をかけない程度に想って生きていたらダメなんですか?」
私は小さく首を振って
「できなくない。ダメなんかじゃないよ赤光」
私の中のモノクロの世界に色をつけたこの出会いと気持ちを忘れたくない。消したくない。
この止まらない冷めない恋心を消すことは出来ないけれど、片思いに戻ることは出来るはず。
そうだと思いたい。信じたい。
例えどんな悲劇でも笑えるように。漆黒の闇を照らし出せるように。
「私は貴女が光っている光を消さないで欲しいんです。」
「うん。分かった」
「約束ですよ」
「はい!」
元気よく声を出した瞬間いつも見慣れている私の部屋だった。
殺風景な部屋の中に私と赤光は立っている。
「あれ?」
「貴女の部屋ですよ。貴女は闇の中に迷い込んでしまったんですよ。でも大丈夫ですよね?もう私と会うことはないですよね?」
初めて不安そうな声と目で私に聞いてきた。
「赤光。私の中にある大切な気持ちを呼び起こしてくれてありがとう。一つお願いしてもいい?」
「いいですよ。私の出来る範囲なら」
「もう一度キスして」
「え?・・・っ・・」
一瞬動揺して、ほんの少し頬が赤くなったのは私の気のせいじゃない。
「もう会えないんでしょ?だからお別れと」
「お別れと?」
赤光が聞き返すよりも先に赤くなった頬に自分の唇を押し付けた。
「新しいスタートをきってくれたありがとうの気持ち」
どんどん赤光の顔が真っ赤になっていく。
こんな綺麗な男の人に言っていいのかわからないけれどこの人かわいい。本当に可愛い。
「貴女は光のような女性ですね。貴女を見ていると私の恋人を重ねてしまいましたよ」
あ、ちょっとだけ声が上ずっている。
やっぱり動揺しているんだ。
こんな些細な変化を与えられることが嬉しかった。私にも何かが出来るんだと感じると尚更嬉しい。
「私に似ている?」
「ええ。泣いた時の顔がぱっと明るく笑う所が特に。だから貴女は私の世界にきちゃいけないんです。貴女の光を隠してしまう存在でしかないですから今の私は」
「ううん・・・。赤光違うよ」
祈っているあなたがなくした何かはわからないけれど赤光には
「赤光は雪みたいだよ。真っ白で私の心の中の混沌を真っ白な優しさで包んでくれた。だから赤光には笑ってもらいたいんだ」
赤光は首を振って軽く笑いながら淡々と自分を傷つける言葉をつむぐ。
「私は貴女に言われるだけの存在じゃないですよ。そうでなきゃ・・愛しい人を失ってしまった今でも闇の中に佇むだけの無能な・・」
「もういいから!赤光もう言わなくていい」
どうしてそんなに自分を責めるの?
唇をかみ締めて自分を傷つけている姿が悲しくて知らず知らず涙が出てきてしまった。
「ああ、、泣かないで下さい。やっぱり私は貴女にとって疫病神でしかなかったんですね」
「違うよ!本当に厄病神だったらキスなんてできないよ」
さっきの私のことを思い出したのかまた赤くなって黙り込んだ。
その沈黙がちょっと悲しかった。
自分の中にある感情すべてを抑えようとしているから。
とてもとても深い悲しみ抱えて、じっと止むように待っている姿が細い赤光の体をより細くみえてしまう。
どうしてそんなに自分を傷つけてしまうのか?
そんなに自分を責めなくても疑わなくてもいいのに。どうして?
「赤光は優しすぎるよ。優しすぎて自分を責めちゃだめだよ」
何も伝えられない私は苦しくてたまらない。これ以上何も浮かばない私の涙をすくってそっと私の顔を包むそして唇が頬に触れる。
「ありがとうございます。私は貴女に一瞬でも出会えて同じ時間を共有できて幸せでした」
いつも浮かべている表情に戻ってにっこりと笑って囁きかけた。
「私も。」
「貴女の中の光をわすれないでください。貴女だけの光を」
「うん。だから赤光も何があったか分からないけれど赤光が進む道が明るくなるように祈っているから」
私も何があってもあきらめないから、赤光もあきらめないで。
私の涙を知って包んでくれた赤光ならきっと失ったものを取り戻せると私はしんじているから。
そういいかけるのを遮るように赤光の姿は消えてしまった。
私は小さく泣いて、確かに手の中にあるブレスレットを強く握った。
次の日。
いつものように制服に身を包んで落ち着かない手つきで教科書を鞄の中に入れる。
今日はお気に入りの髪型にして気分を盛り上げていこう。
今日もしあの人に出会ったらこう言おう。「つきあってくれてありがとう。これからは友達としてよろしくお願いします」
例えあの人が悲しい言葉を言ってももうへこたれない。笑ってあの人の言葉が聞けるようになった今だから伝えるの。
私のとっておきの気持ちが少しでも届くように。
玄関のドアをあける。そこには眩しい空色と光。もう逃げない。
もう一度この手で愛しい瞬間を景色を見ていくために もう目を閉じない。