蝋人形の館 「終幕」 BGM 赤光 アンダーグラフ 遠き日(クリックすると歌詞とかプチコラムが見れます)
朋華 坂本真綾 奇跡の海
「お前の背中は隙だらけなんだよ」
案内人になる前に戦う事を教えてくれた琥珀先輩からいつも言われていた言葉がふいに思い出した。
案内人になる前の僕はおごっていたのかもしれない。
自分が望めば何でもかなうと心の奥底で信じていたのかもしれないけれどそれは違っていた。
僕の腕の中で息を引き取った琥珀先輩が体で教えてくれた事
まだ僕は貴女の死を受け止めていなかった事 立ち直っていない事何よりも目標がなかった事
たくさん問題は山積みでどうしようもなくて窒息しそうだった。
でもそんな僕に琥珀先輩は贈り物をくれた。
自傷行為で視力が低下した片方の目につけている眼鏡とねじまき式時計とメッセージがついた時計と何よりも
「赤光。準備はいいかい?」
この案内人を育成し、蝋人形の館という季節も時間も流れない空間を作った創設者黒紗さんが声をかけてくれる。
「はい。いいです」
僕は頬を叩きながら答えた。
もう一度朋華と生きられるようにしてくれたことが最大のプレゼントだった。
何よりも 誰よりも 自分以上に大切な人が失って 廃人になっていた僕を体だけじゃなく心まで強くしてくれた先輩に感謝したいと思う。
といっても感謝してもし足りないくらい 恩返しできないくらいなんだけど
今僕が出来ることは先輩が愛している要ちゃんに先輩の死を伝えた事とこれから始まる儀式を成功させる事だった。
「赤光兄ちゃんがんばってね。その間に侵入者はオレと要と鷹晶でやっつけておくからね♪」
「はい。お願いします」
「じゃ赤光。ちゃんと朋華さん連れて帰って来るんだよ。これ以上私は他人の死を受け入れたくないから・・」
少し伸びた前髪で僕と視線を合わせないように言いながら顔を曇らせて、無理に笑顔を作る要ちゃんが悲しくてでも
「分かっています。要ちゃんの望みを叶えるように私も頑張りますね」
優しくでもはっきりと宣言した。
「結婚式は俺の所であげろよ。安くしてやるよ(笑)」
くすくす笑いながら鷹晶さんが(ハンター兼神父をしている)僕によびかける。
「本当に朋華連れて帰ったら式あげますからよろしくおねがいします。」
三人に笑顔で笑って、初めて入るお客様しか入れないカプセルに身を投げた。
扉が閉まり目の前には蝋人形になっている朋華がいる。
目を閉じればいつも貴女がいた。
子猫のように笑って 悲しい事が合った時は素直に泣いて そんなコロコロ変わる表情が可愛くていとおしくて
いつも弱気になる僕の背中を押してくれた。
何よりも傍にいる貴女が居ることじたいが当たり前のように感じて 空気のように必要になっていった。
いつの間にか
心も体も貴女に囚われていった。
心地よい拘束と束縛と何よりも優しさと温もりがあったから僕はここまで来れた。
貴女と出会わなかったら 恋をしなければ僕は地位や名誉は持っていてもうわべな態度や言葉でしか他人と接する事しかできない
つまらない人間と演じつづける事しか出来なかったと思う。
だから今だから分かるよ。
僕は一人じゃなかった。それを気付かせてくれたのは貴女がいてくれたからだ。
『いつまでも二人でよう』そういう僕の無茶なお願いを苦笑しながら頷いてくれた貴女
約束を守って体は死んでも、心は傍にあった。
約束を守った貴女の強さに対して僕は何ができるんだろうか?
唯一できるとしたらもう一度貴女を死から生きている状態に戻す事だ。
だから僕は戦うよ。
その蝋人形となって綺麗ででも冷たい体にもう一度命というともし火を入れるために。
もう一度貴女の笑顔に会えるように。
一分でも一秒でも傍に居たいから。
僕は目を閉じた。
同時に下から液体があふれ出てくる。
透明な水に近い色だった。
顔まできても呼吸が出来る。不思議な感覚が僕を支配する。
気持ちいい感じと雨に濡れたようなあの特有のじめっとした感じがあるわけじゃないけれどどこか体が拒絶反応を起こしている。
深く深呼吸したとたん視界は歪み声が聞こえる。
ここは蝋人形の館じゃないと本能が悟っている。
深い深い森の中だった。
聞き覚えのある声が心地よく僕の耳を刺激する。
その声に向かって僕はあてもなく歩き出した。
何分くらい歩いたんだろう?声が聞こえる
聞き覚えのある声
それは朋華の声だった。
「あなた誰?」
昔見せてもらった朋華が幼い時の姿だった。
どうして子供なんだろうか?
そんな疑問よりもここにちゃんと朋華が居るって事が嬉しかった。
疑問は頭の隅に追いやって質問に答えた。
「朋華は知っているよ。だから内緒。」
人差し指を唇に当てて笑った。
「お兄ちゃん不思議な人だね。私は崎 朋華だよ。私がお兄ちゃんの名前分かるまでお兄ちゃんでいい?」
「うん。それでいいよ。手繋がないですか?ここは森だから女の子一人じゃ危ないですよ」
差し出した手に素直に小さな手が絡まる。
小さくてもこれは朋華の温もり
それすらいとおしい。狂おしいまでに
「一体朋華はどこに向かおうとしていたんですか?」
「この先の湖まで行きたいんだけど森がじゃまして通れないの」
「そんな事は心配無用ですよ」
森林破壊してしまう事に心の中で十字をきりつつ案内人として受け継がれた能力を発揮させた。
木が重力に負けて下に沈んでいく様をみて
「お兄ちゃんすごいね」
黒目の大きな目を輝かせて僕を見る。
ああ・・・・やっぱり君は小さくても朋華だ。
繋いでいた手を思わず強く握り締めてしまったら朋華はビックリして僕を見ながらまた笑ってくれた。
「じゃこれでその湖までいけますね」
「うん。」
歩きながら話した事はさっきの重力の説明を中心に今度は僕がしてきた事を話した。
「私もその館に行ってみたいなぁ。でも私は湖にいかなきゃいけないの」
どうしてそこまで今から向かう湖に執着するのかその時の僕は分からなかったから聞かなかったけれどふいにこういわれた
「お兄ちゃんって王子様みたいだよね」
「そうですか?」
「優しいし、強いし、かっこいいし。さっきから私は一人じゃ歩けなかった道まで作ってくれたんだもん。すごい人だよ。でもね」
「何ですか?」
「私は王子様を待っているわけじゃないの。私が輝かなきゃ王子様は気付いてもらえないからだから私は歩いているの」
意味深な言葉だからどう返していいのか分からずに黙々と歩きつづけたら綺麗な湖が見えた。
「あったー♪ここだよ。お兄ちゃんここまで連れて行ってくれてありがとう」
僕の手を振り切ろうとするのを躊躇いながらでも1番見せた笑顔で僕に呼びかけてくれた。
「これからどうするんですか?」
「私を待っている人がいるから。だから私が迎えにきたの。」
その声に反応するように湖が波を立てて徐々に人の形に変化していく。
ああ・・・・これは僕だ。
僕が案内人になる前の 蝋人形の館に来る前の僕だ。
人の形に変えた僕じゃない僕が朋華に近寄ってきて手招きをする。
僕の手を振り切ってその差し出された手に向かう朋華の動きを僕は力ずくで止めた。
「だめだよ。行っちゃいけない。」
「お兄ちゃん。離して。私があの人の所に行かなきゃあの人はずっと一人なんだよ。だから私がいかなきゃいけないの。だから離して」
小さな体で僕の力から逃げようとする朋華
「僕は一人じゃありません。さっき話した館で待っているみんなや何よりも朋華が居てくれたから僕はここまでこれたんだよ。・・・っつ」
青蓮がもつ水の能力と同じ水の圧力が朋華を襲うからその体を包んで守った。
「お兄ちゃん!!もういいんだよ。私があの人の傍にいれば傷つかないんだよ」
泣きながら力なく地面に這いつくばる僕に叫ぶ朋華にできることは
『朋華さんは蝋人形の館に身を置いていて心も館に支配しかかっている。その呪縛をとけばまた人間として生活できる』
黒紗さんは僕にそういう説明をしていたけれど
朋華は館に心を支配しかかっているんじゃない。僕のために 僕を思ってここまで必死になっているんだ。
「違うよ。あれは僕であって僕じゃない。目を覚まして」
涙が溢れる目にくちづけて小さな唇に僕の唇を重ねた。
「私はあの人の傍に居たいからそのためならなんでもするの・・・どうしてお兄ちゃんはその決心をゆらすの?」
「なんでもするって言ったよね。だったら自分の事もっと大切にしてください。
僕は朋華に生きていて欲しいから朋華の分まで強く生きるとか、朋華を犠牲にしてまで生きたくないよ。
何もかも一人でその小さな体で抱え込まなくていい。その荷物を僕に預けていいんだよ。そうじゃなきゃ僕達が出会った意味がなくなるよ」
生きていたらこうやって温もりを共有する事が出来る。
でも時に間違いを犯したり、すれ違ったりして傷ついてしまう事や、傷つく事もあるけれどまたやり直す事ができる。
そのやり直す事を出来る。人間が出会いの一つで変われると教えてくれたのは
そう。朋華貴女なんですよ。
だから今僕に出来ることは貴女にこの思いをぶつける事。そして朋華を縛っている朋華を死に至らしめた僕を変える事。
無理やり体を起こして僕じゃない昔の僕に重力を叩きつけて消滅させた。
まぶしい光が朋華を包んで僕が出会った朋華の姿に変わっていく。
「輝・・・・志?」
「おはよう。さぁ帰ろう。みんなが待っていますよ」
目覚めたばかりの朋華はまぶしい光に瞬きを繰り返しながら僕の手をぎゅっとにぎる。
その強さに負けない強さで僕もぎゅっと朋華をハグした。
誰よりも何よりも自分よりも大切な人が生きていてくれるだけで嬉しい。
そう思える人に出会えた僕は幸せ者だ。
その頃蝋人形の館では。
「だー!!赤光兄ちゃんがいなくなったとたんなんでこんなに侵入者が来るんだよ」
「うっせぇ!MAXドチビ。うだうだいってねぇで赤光の代わりやれよ」
数が半端な数じゃないくらい侵入者が現れている。
これもここの蝋人形を狙っている策だったのか?
呼吸が荒い。酸素が不足していくのがわかっていく。体は限界に近い。
「青蓮!!戦って。今度はここを守るのは青蓮なんだよ。だから今はがんばって。私も鷹晶さんもいるんだから。一人じゃないよ」
強い視線がオレに痛いくらい突き刺さる。
何かが壊れて甘えとか不安とかが吹っ飛んでいく 何かが変わっていくのを感じた。
「サンキュー要!鷹晶。まだまだオレがんばるぞー」
そう言って立ち上がろうとした時赤光兄ちゃんの気配がしたと思ったら赤光兄ちゃんの重力が侵入者を地に叩きつける。
「おぅ!おかえり赤光。あとは俺と要ちゃんでなんとかやっているからそこのドチビを介抱してやってくれ」
やっぱりオレはまだ弱いと感じた瞬間だった。
侵入者も片付けて蝋人形から人間に戻った朋華がみんなにお茶を振舞いながら自己紹介をしあった。
「これで赤光も結婚できるな。まぁ友達価格で式あげてやるから楽しみにしておけよ。仕事はどうする?オレが加入しているハンターになるか?」
案内人になるともらえる自分に合わせた能力はそのまま受け継がれる事になったからハンターでも十分食べていけるけれど
「いえ・・・まだ分かりませんが出来るだけ二人でいる時間を大切にしたいのでそんなに危険じゃない仕事をさがしますよ。」
「私これ以上輝志が傷つくの見るの嫌だよ。・・・・我儘言うけれど傍にいて欲しいよ」
ああ・・もうそんな可愛い顔して言わないで欲しい。
ずっとこのままいたいって思うくらいに僕は昔以上に貴女を思っている。
だからこれからはいっしょにいたい。今度こそ貴女の手を離さないでいるから。
僕は貴女を守る 貴女は僕を包んでくれる。
その距離がいい。その距離でいたい。
だから貴女はそのままでいて欲しい。これから起きる盛り沢山の生活が待っているけれど二人なら大丈夫と思えるよ。
涙も笑顔に変えて
弱さも強さに変えて
約束を守った貴女にできる事は約束を破った僕ができる事は貴女を守りぬく事だから。
一緒に生きながら償わせて欲しい。